電力配電線路(屋内配線を含む) / 力率改善12分で読めます
力率改善と進相コンデンサの容量計算|電力の三角形から例題まで
電験三種の力率改善を、電力の三角形から整理します。進相コンデンサの必要容量 Qc=P(tanθ1−tanθ2) の求め方、電流・損失・電圧降下が減る理由、過補償の注意を例題つきで確認できます。
力率改善とは、負荷と並列に進相コンデンサをつないで無効電力を打ち消し、力率 cosθ を 1 に近づけることです。必要なコンデンサの容量は、有効電力を P、改善前後の力率角を θ1、θ2 として Qc=P(tanθ1−tanθ2) で求めます。この記事では、電力の三角形から改善の効果、容量の計算、過補償の注意までを例題つきで確認します。
力率改善の全体像
- 力率とは
- 有効電力・無効電力・皮相電力は電力の三角形で結ぶ
- 力率は cosθ=P/S
- 力率改善のしくみ
- 負荷と並列に進相コンデンサを入れ、遅れ無効電力を打ち消す
- 力率改善の効果
- 電流が減り、損失は電流の 2 乗、電圧降下は電流に比例して減る
- 必要容量と例題
- Qc=P(tanθ1−tanθ2) を 3 手順で解く
- 過補償の注意
- 入れすぎると進み力率になり、電圧上昇や高調波の問題が出る
力率とは(電力の三角形)
交流回路の電力には 3 種類あります。電圧と電流の積 S=VI [VA] が皮相電力、そのうち実際に仕事をする分が有効電力 P [W]、仕事をせず電源と負荷の間を行き来するだけの分が無効電力 Q [var] です。電圧と電流の位相差を θ とすると、3 つは図1の直角三角形(電力の三角形)で結べます。位相差から 3 つの電力を導く流れは、有効電力・無効電力・皮相電力で詳しく扱っています。
図1 電力の三角形。底辺が P、高さが Q、斜辺が S、底辺と斜辺の角が θ
力率は、皮相電力のうち有効電力が占める割合で、次のように表します。
cosθ=SP=P2+Q2P
三相回路で線間電圧を V、線電流を I とすると、S=3VI、P=3VIcosθ、Q=3VIsinθ です。力率が 1 に近いほど、流した電流がむだなく仕事になります。
電動機(モーター)や変圧器、溶接機のようにコイルを使う機器は、電流が電圧より遅れる遅れ力率の負荷です。工場に電動機が多いほど無効電力が大きくなり、力率は下がります。
図2 工場の電動機とポンプ。コイルを使う電動機は遅れ無効電力を消費する(写真はイメージ)
| 負荷 | 無効電力 | 電流の位相 | 力率の呼び方 |
|---|
| 電動機・変圧器・溶接機(コイル) | 遅れ無効電力を消費する | 電圧より遅れる | 遅れ力率 |
| 進相コンデンサ | 進み無効電力を供給する | 電圧より進む | 進み力率 |
力率改善のしくみ(進相コンデンサ)
電動機などが使う遅れ無効電力は、本来、電源から送ってもらわなくても足りる量です。そこで、負荷の近くに進相コンデンサを並列につなぎ、コンデンサが進み無効電力を出すことで、負荷の遅れ無効電力を現場で打ち消します。これが力率改善です。
図3 負荷と並列に進相コンデンサを入れる。電源が送る電流 I は、IL と IC のベクトル和になる
電力の三角形で見ると、コンデンサが出す無効電力 Qc の分だけ、電源が送る無効電力が小さくなります。有効電力 P は変わらないので、三角形の底辺はそのままで、高さ(無効電力)だけが縮みます(図4)。
図4 力率改善前後の電力の三角形。底辺 P は同じまま、無効電力が Q1 から Q2 に減り、力率角が θ1 から θ2 に小さくなる
図4では、橙の改善前(力率角 θ1)に対して、青の改善後(力率角 θ2)の斜辺が短く、角も小さくなっています。力率角が小さいほど cosθ は大きく、力率が 1 に近づきます。斜辺 S が短いことは、同じ仕事をするのに必要な皮相電力、つまり電流が小さくて済むことを表します。
力率改善の効果(電流・損失・電圧降下)
負荷の有効電力 P と電圧 V が一定のとき、電流は次の式で決まります。
I=3VcosθP
電流は cosθ に反比例するので、力率が上がると電流が減ります。電流が減ると、次の 3 つが同時に小さくなります。
| 項目 | 式 | 力率改善でどうなるか |
|---|
| 電流 | I=3VcosθP | cosθ に反比例して減る |
| 線路損失 | 3I2R=V2cos2θRP2 | cos2θ に反比例して減る(電流の 2 乗) |
| 電圧降下 | v=3I(Rcosθ+Xsinθ) | 電流が減り、sinθ も小さくなるので減る |
図5は、cosθ=1 のときの電流と損失を 1 として、力率ごとの比を並べたものです。力率 0.6 では、電流は 1.67 倍ですが、損失は電流の 2 乗の 2.78 倍にもなります。
図5 力率と電流・線路損失の比。力率が低いほど電流が増え、損失は電流の 2 乗で増える
三相3線式の電圧降下の式は、I=P/(3Vcosθ) を代入すると次のように整理できます。
v=3I(Rcosθ+Xsinθ)=VP(R+Xtanθ)
力率を改善すると tanθ が小さくなるので、電圧降下は小さくなります。リアクタンス X が大きい高圧の配電線ほど、この効果が大きく出ます。
設備の面でも利点があります。変圧器や線路の容量は皮相電力 [kVA] で決まっているので、P=Scosθ より、力率が上がるほど同じ設備から取り出せる有効電力が増えます。たとえば 100 kVA の変圧器は、力率 0.8 なら 80 kW、力率 0.95 なら 95 kW まで使えます(変圧器の容量の考え方は変圧器の巻数比の記事も参照)。
進相コンデンサの必要容量の求め方と例題
必要容量の公式
有効電力 P の負荷の力率を cosθ1 から cosθ2 に上げるとき、必要な進相コンデンサの容量 Qc は、図4の Q1 と Q2 の差です。
Qc=Q1−Q2=Ptanθ1−Ptanθ2=P(tanθ1−tanθ2) [kvar]
tanθ は、力率 cosθ から sinθ=1−cos2θ を出して tanθ=sinθ/cosθ で求めます。よく使う値を表にまとめます。
| 力率 cosθ | sinθ | tanθ |
|---|
| 0.6 | 0.8 | 1.333 |
| 0.8 | 0.6 | 0.750 |
| 0.9 | 0.436 | 0.484 |
| 0.95 | 0.312 | 0.329 |
| 0.96 | 0.28 | 0.292 |
| 1.0 | 0 | 0 |
力率 0.6 と 0.8 は 3 : 4 : 5 の直角三角形、0.96 は 7 : 24 : 25 の直角三角形になるので、tanθ が分数で出ます(0.6 なら 4/3、0.8 なら 3/4、0.96 なら 7/24)。
解き方の手順
- 改善前の力率から tanθ1、改善後の力率から tanθ2 を求める
- Qc=P(tanθ1−tanθ2) に、有効電力 P を代入する
- 単位(kW と kvar)をそろえて答え、図4の三角形で大小関係を確かめる
実際の設備では、コンデンサは遮断器や変圧器と同じ盤に収められ、直列リアクトルとセットで取り付けられます。
1遮断器2変圧器3進相コンデンサ4直列リアクトル- 遮断器 回路を入り切りし、事故のときに電流を遮断する
- 変圧器 高圧の電気を、使う電圧まで下げる
- 進相コンデンサ 進み無効電力を出し、遅れ無効電力を打ち消す
- 直列リアクトル 高調波の拡大や突入電流を抑えるコイル
図6 キュービクルの内部。変圧器の隣に進相コンデンサが並ぶ(写真はイメージ)
1端子2直列リアクトル3コンデンサ4架台- 端子 三相の電線をつなぐ碍子つきの端子
- 直列リアクトル コンデンサと直列につなぐコイル
- コンデンサ 金属ケースの中に絶縁した電極が入っている
- 架台 機器を載せて床に固定する鋼材の枠
図7 進相コンデンサと直列リアクトル。三相ぶんがまとまって架台に載る(写真はイメージ)
例題
解答と解説を見る
cosθ1=0.8 より tanθ1=0.6/0.8=0.75、cosθ2=0.96 より sinθ2=0.28、tanθ2=0.28/0.96=7/24≒0.2917 です。
Qc=P(tanθ1−tanθ2)=240(0.75−247)=180−70=110[kvar]電流は cosθ に反比例するので、改善後の電流は改善前の
I1I2=cosθ2cosθ1=0.960.8≒0.833 倍です。答え:110 kvar、約 0.83 倍。検算:改善前の無効電力は 240×0.75=180[kvar]、改善後は 240×7/24=70[kvar] で、差の 110[kvar] をコンデンサが負担しています。
解答と解説を見る
損失は電流の 2 乗に比例し、電流は cosθ に反比例するので、損失は cos2θ に反比例します。
Pl1Pl2=(cosθ2cosθ1)2=(0.90.6)2=94≒0.444答え:約 0.44 倍(約 56 % の減少)。電流は 0.6/0.9=2/3 倍(約 33 % 減)ですが、損失はその 2 乗で効いてきます。
解答と解説を見る
改善前の無効電力は Q1=400×tanθ1=400×0.75=300[kvar] です。コンデンサの分を引くと
Q2=300−100=200[kvar]有効電力は P=400[kW] のままなので、皮相電力は S2=4002+2002=200000≒447[kVA] です。
cosθ2=S2P=447400≒0.894答え:約 0.89(遅れ)。力率が分からないときは、「無効電力を求める → コンデンサ分を引く → cosθ=P/P2+Q2」の順で解きます。
試験の補足:問題文の「力率 80 %」は cosθ=0.8 のことです。三相の問題では、有効電力 P や容量 Qc は三相の合計で与えられることが多いので、3 を二重に掛けないよう注意します。
過補償の注意点
進相コンデンサは、入れれば入れるほどよいわけではありません。負荷の遅れ無効電力より大きな容量を入れると、無効電力が逆向きになり、力率は進み側に回ります。これを過補償と呼びます。
Qc>Q1⇓Q1−Qc<0 (進み無効電力が残る)
たとえば例題3の負荷(400 kW、力率 0.8)に 400 kvar を入れると、無効電力は 300−400=−100[kvar] の進みになり、力率は 400/4002+1002≒0.97(進み)です。数字の上では高い力率に見えても、実際には次の問題が起きます。
| 問題 | 起きること | 対策 |
|---|
| 電流がふたたび増える | 力率 1 のとき電流は最小で、それを超えて進めると無効電流が逆向きに増える | 必要容量にとどめる |
| 受電点の電圧が上がる | 進み電流が線路のリアクタンスを流れると、受電端の電圧が上昇する | 軽負荷時にコンデンサを切る |
| 軽負荷で進みになる | コンデンサの容量は一定だが、負荷が軽いと遅れ無効電力も減る | 負荷に合わせて段階的に入り切りする自動力率調整装置 |
| 高調波の拡大 | コンデンサが高調波電流を吸い込み、過熱や共振が起きる | 直列リアクトルを入れる |
よくある質問
力率が低いと、なぜ電流が増えるのですか。
同じ有効電力を送るのに、無効電力の分まで電流が流れるからです。三相では I=P/(3Vcosθ) なので、力率が 0.8 なら、力率 1 のときの 1/0.8=1.25 倍の電流が必要です。この余分な電流は仕事をせず、線路の損失と電圧降下だけを増やします。
遅れ力率と進み力率の違いは何ですか。
電圧に対して電流の位相が遅れるのが遅れ力率、進むのが進み力率です。電動機や変圧器などのコイルの負荷は遅れ、コンデンサは進みです。進相コンデンサは進み無効電力を出して、負荷の遅れ無効電力を打ち消します。
力率改善に、なぜ進相コンデンサを使うのですか。
負荷の多くはコイルで、遅れ無効電力を消費します。これを打ち消すには、逆向きの進み無効電力を出す機器が必要で、それがコンデンサです。反対に、軽負荷の送電線のように進みが余る側では、遅れ無効電力を出す分路リアクトルを使います。
思い出してみよう
答えを見る前に、まず自分で思い出してからタップしてください。
電力の三角形で、底辺・高さ・斜辺はそれぞれ何を表しますか?
底辺が有効電力 P、高さが無効電力 Q、斜辺が皮相電力 S です。力率は cosθ=P/S です。
負荷と電圧が同じとき、力率を改善すると電流と損失はどう変わりますか?
電流は cosθ に反比例して減り、損失は電流の 2 乗なので cos2θ に反比例して減ります。
進相コンデンサの必要容量を求める式は何ですか?
Qc=P(tanθ1−tanθ2) です。θ1 は改善前、θ2 は改善後の力率角です。
力率 0.8 と 0.6 の tanθ はいくつですか?
0.8 なら 3/4=0.75、0.6 なら 4/3≒1.33 です。3 : 4 : 5 の三角形で覚えます。
力率を 0.6 から 0.9 に改善すると、線路損失は何倍になりますか?
(0.6/0.9)2=4/9≒0.44 倍です。
過補償になると何が起きますか?
進み力率になって電流が再び増え、受電点の電圧が上がります。軽負荷では特に起きやすく、高調波対策に直列リアクトルを入れます。
まとめ
- 電力の三角形で、S2=P2+Q2、力率は cosθ=P/S
- 力率改善は、負荷と並列に進相コンデンサを入れて遅れ無効電力を打ち消すこと
- 力率が上がると電流が減り、損失は cos2θ に反比例、電圧降下も小さくなる
- 必要容量は Qc=P(tanθ1−tanθ2)。tanθ は 3 : 4 : 5 の三角形で素早く出せる
- 入れすぎは過補償で、進み力率・電圧上昇・高調波の問題が出る
次は、変圧器の巻数比と電圧・電流の関係で、変圧器の容量が皮相電力 [kVA] で決まる理由を確かめましょう。