電気分解は、電気を流して物質をつくる操作で、電池は、その逆に物質の化学反応から電気を取り出す装置です。電験三種の機械では、ファラデーの法則で析出量を求める計算と、蓄電池の容量の計算が土台になります。この記事では、電極で起こる反応から順に整理し、4つの例題で計算を確認します。
電気化学の全体像
- 電気化学とは
- 電気分解(電気から物質)と電池(物質から電気)。酸化と還元で整理する
- 電気分解のしくみ
- ファラデーの法則
- w=nM⋅FIt。析出量は電気量に比例する
- 電気分解の工業利用
- 精錬・めっき・アルミニウム・水素。電流効率に注意する
- 電池の原理
- 蓄電池と燃料電池
- 鉛蓄電池は充放電できる。燃料電池は水素と酸素から電気をつくる
- 電気化学の例題
電気化学とは?電気と物質をつなぐ二つの向き
電気化学とは、電気エネルギーと化学反応の間の変換を扱う分野です。変換には二つの向きがあります(図1)。電解槽に電流を流して物質をつくる電気分解と、化学反応から電流を取り出す電池です。蓄電池は、充電のときは電気分解と同じ向き、放電のときは電池の向きに働きます。
図1 電気化学の二つの向き。電気分解は電気から物質を、電池は物質から電気をつくる
酸化と還元、陽極と陰極
どちらの場合も、電極の表面で電子の受け渡しが起こります。電子を失う反応が酸化、電子を受け取る反応が還元です。電極の名前は、電気分解と電池で付け方が違います。
| 電気分解 | 電池(放電) |
|---|
| 酸化が起こる電極 | 陽極 | 負極 |
| 還元が起こる電極 | 陰極 | 正極 |
| 電子の流れ | 陽極 → 電源 → 陰極 | 負極 → 負荷 → 正極 |
電気分解のしくみ:電解槽で何が起こるか
電解質の水溶液に二つの電極を入れて直流電源をつなぐと、電解槽の中でイオンが動き、電極の表面で反応が起こります。図2は、硫酸銅水溶液に銅の電極を入れた電解槽です。水溶液の中で、硫酸銅は銅イオン Cu2+ と硫酸イオン SO42− に分かれています。
図2 硫酸銅水溶液の電気分解。陽極の銅が溶け、陰極に銅が析出する
陰極では、銅イオンが電子を受け取って銅になり、電極に析出します。陽極が銅のときは、銅が電子を出して銅イオンになり、溶け出します。
陰極: Cu2++2e−→Cu陽極: Cu→Cu2++2e−
陽極で溶ける銅と陰極で析出する銅は同じ量なので、水溶液の濃度はほとんど変わりません。陽極が白金や炭素のような溶けない電極のときは、陽極で水が反応して酸素が出ます。この場合は、水溶液の銅イオンが減っていきます。
工場の電気めっきは、このしくみを使います。めっきする部品を陰極につなぎ、金属のイオンを含む液に浸して、部品の表面に金属を析出させます(図3)。
1部品2給電棒3めっき液4搬送装置5配管- 部品 陰極につなぎ、金属を析出させる
- 給電棒 部品へ電流を流す
- めっき液 金属のイオンを含む
- 搬送装置 部品を槽へ運ぶ
- 配管 液を送る・抜く
図3 電気めっきの槽。吊るした部品の表面に、金属を析出させる(写真はイメージ)
ファラデーの法則:析出量の求め方
電気分解で電極に析出する物質の量は、流れた電気量に比例します。これがファラデーの法則です。電子 1 mol のもつ電気量を、ファラデー定数 F といいます。
F≈96500 C/mol
正確な値は約 96485 C/mol で、問題では 96500 に丸めた値が使われることが多く、値は問題文で与えられます。銅の析出では、Cu2++2e−→Cu のとおり、銅 1 mol に電子 2 mol が要ります。n を、原子 1 個が受け取る電子の数(イオンの価数)として、電気量 Q=It [C] から析出量を順に求めると、次のようになります。
電子の物質量析出する物質量=FIt [mol]=nFIt [mol]
これに原子量 M(g/mol)を掛けると、質量が出ます。
w=nM⋅FIt [g]
w は析出量 [g]、I は電流 [A]、t は時間 [s] です。M/n は、電子 1 mol あたりに析出する質量です。物質ごとの値は、次の表のとおりです。
| 析出する物質 | 原子量 M | 電子の数 n |
|---|
| 銅(Cu2+) | 63.5 | 2 |
| 銀(Ag+) | 107.9 | 1 |
| アルミニウム(Al3+) | 27.0 | 3 |
原子量は、問題で与えられる値を使います。
電気量と A·h の換算
電池の容量は、A⋅h(アンペア時)で表します。1 A の電流を 1 時間流したときの電気量が 1 A⋅h です。
1 A⋅h=1 A×3600 s=3600 C
電流効率
実際の電解では、電流の一部が目的でない反応に使われるなどして、析出量が計算より少なくなります。通電した電気量から計算した理論上の生成量に対する、実際の生成量の割合を、電流効率といいます。
電流効率=理論上の量実際の量×100 %
実際の量は、ファラデーの法則で求めた理論上の量に、電流効率を掛けて求めます。
電気分解の工業利用:精錬・めっき・水素
ファラデーの法則は、金属の製造や加工で、必要な電気量や生産量を見積もるときに使います。代表的な利用を、次の表にまとめます。
| 用途 | 電極のつなぎ方 | 計算のポイント |
|---|
| 銅の電解精錬 | 粗銅が陽極、純銅が陰極 | n=2 |
| 電気めっき | めっきする物が陰極 | 析出量から厚さ |
| アルミニウム | 溶かした氷晶石の中で電解 | n=3、大電流 |
| 水の電気分解 | 陰極に水素、陽極に酸素 | 体積比 2:1 |
銅の電解精錬は、不純物を含む粗銅を陽極に、純銅の板を陰極にして、硫酸銅水溶液に電流を流します。陽極の銅は銅イオンとして溶け、陰極に純粋な銅として析出します。銅よりイオンになりにくい不純物は、溶けずに槽の底へ沈みます(陽極泥)。電解で得られた銅は、図4のような板で取り出されます。
1析出面2板の側面3奥の山4床- 析出面 結晶状に析出して、ざらつく
- 板の側面 薄い板が何枚も重なる
- 奥の山 別の板の山
- 床 倉庫のコンクリート
図4 電解で得られる銅の板のイメージ。表面に銅が結晶状に析出している(写真はイメージ)
アルミニウムは、イオンになりやすい金属です。水溶液を電気分解しても、陰極ではアルミニウムではなく水素が発生してしまいます。そこで、氷晶石にアルミナ Al2O3 を溶かした溶融塩を電気分解し、陰極でアルミニウムを得ます。
Al3++3e−→Al
水の電気分解は、陰極で水素、陽極で酸素が発生し、体積比は水素 : 酸素 =2:1 です。
2H2O→2H2+O2
電池の原理:化学エネルギーを電気に変える
電池は、二種類の電極と電解液を組み合わせ、化学反応で出る電子を外部回路に取り出す装置です。図5のように、負極で酸化が起こって電子が外部へ出ていき、負荷を通って正極に入り、正極で還元が起こります。電流の向きは、電子の流れと逆で、正極から負荷を通って負極へ向かいます。
図5 電池のしくみ。負極で電子を出し、外部回路を通って正極で受け取る
電池は、使い切りかどうかで分けます。
| 種類 | 充電 | 例 |
|---|
| 一次電池 | できない | マンガン乾電池・アルカリ乾電池 |
| 二次電池(蓄電池) | できる | 鉛蓄電池・リチウムイオン電池 |
| 燃料電池 | 燃料を送り続ける | 水素と酸素 |
身近な乾電池は、一次電池の代表です(図6)。
1正極端子2外装3立てた電池- 正極端子 突き出た側の端
- 外装 中に電極と電解質が入る
- 立てた電池 突起は上向き
図6 円筒形の乾電池。突起のある端が正極(写真はイメージ)
電池の起電力と内部抵抗の関係は、電池の内部抵抗と端子電圧の求め方で扱っています。
蓄電池:鉛蓄電池と容量
蓄電池(二次電池)は、放電のあとで外から電流を流すと、逆向きの反応が起こって元に戻ります。代表が鉛蓄電池で、負極に鉛 Pb、正極に二酸化鉛 PbO2、電解液に希硫酸を使います(図7)。
図7 鉛蓄電池の放電と充電。放電で両極が硫酸鉛になり、電解液の比重が下がる
放電のとき、両方の極板で硫酸鉛 PbSO4 ができます。
負極: Pb+SO42−→PbSO4+2e−
正極: PbO2+4H++SO42−+2e−→PbSO4+2H2O
二つを足すと、全体の反応になります。右向きが放電、左向きが充電です。
PbO2+Pb+2H2SO4⇌2PbSO4+2H2O
放電すると、電解液の硫酸が減って水が増えるので、比重が下がります。満充電のときの比重は、約 1.28 が一般的です。硫酸鉛は水に溶けにくく、極板に付いたままなので、充電すると元の鉛と二酸化鉛に戻ります。1セルの起電力は約 2 V で、自動車用には、6セルを直列にして約 12 V にしたものが一般的に使われます(図8)。
1正極端子2負極端子3電槽4固定具- 正極端子 赤いカバーの側
- 負極端子 黒いカバーの側
- 電槽 中に極板と電解液が入る
- 固定具 電池が動かないように押さえる
図8 自動車用の鉛蓄電池。上面に二つの端子がある(写真はイメージ)
リチウムイオン電池も蓄電池で、リチウムイオンが正極と負極の間を行き来して、充放電します。機器、電気自動車、電力貯蔵などに使われます。
容量と放電時間
蓄電池の容量は、取り出せる電気量を A⋅h で表したものです。電流 I で放電できる時間は、容量を電流で割って求めます。
t=I [A]容量 [A⋅h] [h]
端子電圧 V が一定なら、取り出せる電力量は、電圧と容量の積です。
W=V×容量 [Wh]
実際の電池は、大きな電流で放電するほど、取り出せる容量が小さくなることが多くあります。問題では、容量と電圧を一定として計算します。
燃料電池:水素と酸素から電気をつくる
燃料電池は、水素などの燃料と空気中の酸素を外から供給し続けて、化学反応で電気をつくる電池です。中の物質を使い切る乾電池と違い、燃料を送るかぎり発電できます。水素を燃料にすると、反応でできるのは水です。
図9 燃料電池。負極で水素が電子を出し、正極で酸素と水素イオンと電子が水になる
図9は、水素イオン H+ が電解質を通る形(固体高分子形やリン酸形など)です。反応は、電解質の種類で違います。
負極: H2→2H++2e−正極: 21O2+2H++2e−→H2O
足し合わせると、全体の反応は次のとおりです。
H2+21O2→H2O
これは、水の電気分解 2H2O→2H2+O2 の逆の反応です。水素 1 mol から電子 2 mol が出るので、水素の消費量も、M=2.0、n=2 としたファラデーの法則で求められます。燃料電池自動車には、水素を供給する施設が要ります(図10)。
1供給機2ホース3貯蔵タンク4防護柱- 供給機 水素を車へ入れる
- ホース 車の口へつなぐ
- 貯蔵タンク ためておく設備
- 防護柱 機器を守る
図10 水素を車に入れる施設のイメージ(写真はイメージ)
電気化学の例題
電気化学の計算は、求めるものによって式が変わります。次の表で、式と注意点を整理してから例題に進みます。
| 求めるもの | 使う式 | 注意 |
|---|
| 析出量 | w=MIt/(nF) | t は秒 |
| 実際の析出量 | 理論量 × 電流効率 | 割合は小数にする |
| 放電時間・電力量 | t = 容量 /I、W=V× 容量 | A⋅h と C |
解答と解説を見る
時間は 1 h=3600 s で、電気量は It=10×3600=36000 C です。Cu2+ なので n=2 です。
w=nM⋅FIt=263.5×9650036000≈11.8 [g]答え:約 11.8 g
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w の式を、t について解きます。
t=MInFw=63.5×202×96500×100≈15200 [s]15200/3600≈4.22 より、約 4.22 時間です。
答え:約 4.22 時間
解答と解説を見る
電気量は 5000×3600=1.8×107 C です。電流効率が 100 % のときの理論量は、
w0=327.0×965001.8×107≈1679 [g]です。電流効率 0.90 を掛けます。
w=1679×0.90≈1511 [g]答え:約 1.51 kg
解答と解説を見る
放電時間は、容量を電流で割って求めます。
t=560=12 [h]電気量は、60 A⋅h に 3600 を掛けます。
60×3600=216000 [C]電力量は、電圧と容量の積です。
W=12×60=720 [Wh]=0.72 [kWh]答え:12 時間、216000 C、0.72 kWh
よくある質問
ファラデー定数は、96500 と 96485 のどちらを使いますか?
問題文で与えられた値を使います。電子 1 mol の電気量の正確な値は約 96485 C/mol で、96500 に丸めた値がよく使われます。例題1で比べると、どちらでも約 11.8 g になり、有効数字の範囲では差が出ません。
水溶液の電気分解では、陰極にいつも金属が析出しますか?
いいえ。アルミニウムやナトリウムのように、イオンになりやすい金属の水溶液では、陰極で金属は析出せず、水が反応して水素が発生します。アルミニウムを溶融塩で電気分解するのは、このためです。銅や銀のようにイオンになりにくい金属は、陰極に析出します。
蓄電池を充電するとき、正極と負極の反応はどうなりますか?
放電と逆の反応が起こります。極板の名前は、充電中も放電のときのまま、正極・負極と呼びます。充電では、正極で酸化、負極で還元が起こり、硫酸鉛が鉛と二酸化鉛に戻ります。外から電流を流す点は、電気分解と同じです。
容量 A·h と電力量 Wh は、何が違いますか?
A⋅h は取り出せる電気量で、電流と時間の積です。Wh は、これに電圧を掛けたエネルギーです。同じ 60 A⋅h でも、端子電圧が 12 V なら 720 Wh、24 V なら 1440 Wh です。
思い出してみよう
答えを見る前に、まず自分で思い出してからタップしてください。
酸化と還元を、電子で説明するとどうなりますか?
電子を失う反応が酸化、受け取る反応が還元です。電気分解の陽極と電池の負極で、酸化が起こります。
ファラデーの法則で、析出量を求める式は何ですか?
w=nM⋅FIt です。t は秒、F≈96500 C/mol です。
1 A⋅h は何 C ですか?
3600 C です。1 A×3600 s だからです。
電流効率とは何ですか?
理論上の生成量に対する、実際の生成量の割合です。実際の量は、理論量に電流効率を掛けて求めます。
鉛蓄電池を放電すると、極板と電解液はどう変わりますか?
両極が硫酸鉛 PbSO4 になり、硫酸が減って比重が下がります。
水素を燃料にした燃料電池の、全体の反応は何ですか?
H2+21O2→H2O です。水の電気分解の逆の反応です。
まとめ
- 電気分解は電気から物質を、電池は物質から電気をつくる。電子を失う反応が酸化、受け取る反応が還元
- 析出量は w=nM⋅FIt。t は秒で、1 A⋅h=3600 C。電流効率は理論量に掛ける
- 工業利用は、銅の電解精錬、電気めっき、アルミニウムの溶融塩電解、水の電気分解が代表的
- 鉛蓄電池は、放電で両極が硫酸鉛になり、電解液の比重が下がる。放電時間は容量 ÷ 電流
- 燃料電池は、水素と酸素から水と電気をつくる。水の電気分解の逆の反応
電池の端子電圧の計算は電池の内部抵抗と端子電圧の求め方に、熱の計算は電熱の計算に進みましょう。