冬のエアコンは、使った電力の何倍もの熱を部屋に送ります。電気を熱に変えているのではなく、外の空気の熱を運んでいるからです。この熱を運ぶしくみがヒートポンプで、その働きの良さを表す数が成績係数(COP)です。電熱の計算では COP の考え方を一度見ました。この記事では、冷凍サイクルの中で冷媒がどう変わるか、暖房と冷房の COP がどう結びつくか、理想の COP をどう求めるかを順にたどり、4つの例題で計算を確かめます。
ヒートポンプの全体像
- 熱をくみ上げる
- 電力 W を使って、低温側の熱を高温側へ運ぶ
- 暖房も冷房も、同じ機械で行う
- 冷凍サイクルの4機器
- 圧縮機 → 凝縮器 → 膨張弁 → 蒸発器の順に、冷媒が回る
- 成績係数 COP
- 暖房 COPh=QH/W、冷房 COPc=QL/W
- QH=QL+W から COPh=COPc+1
- 理想の COP(逆カルノーサイクル)
- COPh=TH/(TH−TL)。温度は絶対温度 [K]
- 温度差が小さいほど大きい
- 使い方
ヒートポンプとは?熱をくみ上げるしくみ
ヒートポンプは、低温の側にある熱を、電力を使って高温の側へ運ぶ装置です。水は自然には低い所から高い所へ流れず、ポンプで動力を加えてくみ上げます。熱も自然には高温から低温へ流れるだけなので、逆向きに運ぶには電力が要ります(図1)。
図1 ポンプが水をくみ上げるように、ヒートポンプは熱をくみ上げる
熱を運ぶときに電力 W も使われるので、高温側へ出る熱は、運んできた熱に電力の分が足されたものになります。暖房なら、外の空気から熱を運んで室内へ出すので、使った電力より多くの熱が得られます。電気ヒーターのように電力をそのまま熱にする方法とは、この点が違います。
家庭用エアコンの室外機は、外気の熱を集める役をしています(図2)。熱を吸うために、熱交換器の中の冷媒は外気より冷たくなります。空気中の水分が冷えた面で凍ると、冬には霜がつくことがあります。
1霜2熱交換器3ファン4冷媒配管- 霜 冷えた面に付く
- 熱交換器 外気の熱を集める
- ファン 空気を送る
- 冷媒配管 室内機へ向かう
図2 冬の住宅の室外機。外気の熱を集める(写真はイメージ)
冷凍サイクルで熱を運ぶ四つの機器
ヒートポンプの中では、熱を運ぶ流体である冷媒が、4つの機器を順に通って循環します(図3)。冷媒は、気体と液体を行き来しながら、蒸発するとき熱を吸い、凝縮するとき熱を出す性質を使って、熱を運びます。
図3 冷凍サイクルの4機器と冷媒の状態(暖房運転)
- 圧縮機:低温低圧の気体を圧縮して、高温高圧の気体にします。ここで電力 W を使います。
- 凝縮器:高温高圧の気体が、まわりへ熱 QH を出して凝縮し、高圧の液体になります。暖房では、これが室内側です。
- 膨張弁:高圧の液体の圧力を下げます。圧力が下がると冷媒の温度も下がり、低温低圧の液体と気体が混じった状態になります。
- 蒸発器:低温低圧の冷媒が、まわりから熱 QL を吸って蒸発し、気体になります。暖房では、これが室外側です。
冷媒の温度は、蒸発器では外気より低く、凝縮器では室温より高くなります。熱は高温から低温へしか流れないので、そうしないと熱が移らないからです。暖房のときのサイクルは電熱の計算でも見ました。ここでは冷媒の状態を追ってください。
冷房にするときは、四方弁で冷媒の流れる向きを切り替えます。すると室内側が蒸発器、室外側が凝縮器になり、室内の熱を吸って外へ出します。機械は同じで、熱を運ぶ向きだけが逆になります。
室外機と室内機をつなぐ冷媒の配管は、中を流れる冷媒の温度が高い管と低い管があるので、熱が出入りしないように断熱材で包みます(図4)。
1銅管2断熱材3壁の貫通部- 銅管 冷媒が通る
- 断熱材 熱の出入りを防ぐ
- 壁の貫通部 配管が壁を通る
図4 室外機から壁へ伸びる配管。黒い断熱材で包んである(写真はイメージ)
成績係数 COP と暖房・冷房の関係
ヒートポンプの働きの良さは、成績係数(COP、Coefficient Of Performance)で表します。使った電力に対して、目的の熱がどれだけ得られたかの割合です。電熱の計算では、室内へ出す熱を Q1、外気から吸う熱を Q2 と書きました。この記事では、高温側へ出す熱を QH、低温側から吸う熱を QL と書きます(Q1=QH、Q2=QL にあたります)。
熱の収支を図5に示します。エネルギー保存則から、高温側へ出る熱は、低温側から吸った熱と電力の和です。
図5 ヒートポンプの熱の収支(矢印の太さは熱量の大きさ)
QH=QL+W
暖房の目的は高温側へ出す熱 QH、冷房の目的は低温側から吸う熱 QL です。成績係数は、目的の熱を電力 W で割って求めます(添字の h は暖房、c は冷房です)。
COPhCOPc=WQH=WQL
QH=QL+W の両辺を W で割ると、2つの COP の関係が出ます。
WQHCOPh=WQL+1=COPc+1
同じ運転状態(同じ QL と同じ W)なら、暖房の COP は冷房の COP より 1 だけ大きくなります。暖房では、電力の分も熱として室内に出るためです。COP が 1 を超えても、外から運んだ熱 QL が加わっているので、エネルギー保存則には反しません。
解答と解説を見る
(1) 冷房の目的は低温側から熱を吸うことなので、QL を W で割ります。
COPc=WQL=2.08.0=4.0(2) 熱の収支から、高温側へ出す熱は次のとおりです。
QH=QL+W=8.0+2.0=10 [kW]暖房の目的は QH なので、次のようになります。
COPh=WQH=2.010=5.0これは COPc+1=5.0 と一致します。
答え:(1) 4.0、(2) QH=10 kW、COPh=5.0
理想の COP は温度だけで決まる
熱機関の理想がカルノーサイクルであるように、ヒートポンプの理想は、カルノーサイクルを逆向きに回す逆カルノーサイクルです。損失がまったくない理想の場合、COP は高温側と低温側の絶対温度 TH、TL だけで決まります。
可逆なサイクルでは QH/TH=QL/TL が成り立ちます。ここから QL=QH⋅TL/TH と書けるので、電力 W は次のようになります。
W=QH−QL=QH(1−THTL)=QH⋅THTH−TL
これを COPh=QH/W と COPc=QL/W に入れると、QH が消えて、温度だけの式になります。
COPhCOPc=TH−TLTH=TH−TLTL
2つの式の差は TH−TLTH−TH−TLTL=1 で、理想の場合も COPh=COPc+1 が成り立ちます。
温度は必ず絶対温度 T [K] に直して代入します。セルシウス温度 t [∘C] からは、T=t+273 です。分母の TH−TL は高温側と低温側の温度差で、小さいほど COP は大きくなります(図6)。
図6 温度差と理想の COP(温度差が小さいほど大きい)
図6は、TH=300 K に固定して温度差を変えた計算です。温度差が 15 K なら暖房の COP は 20、冷房は 19 で、30 K なら 10 と 9 に下がります。どの温度差でも、暖房は冷房より 1 だけ大きくなります。
実際のヒートポンプの COP は、圧縮機などの損失があるため、理想の値より小さくなります。理想の COP は、実際の機器が超えられない上限を表します。
解答と解説を見る
(1) 暖房では、室内が高温側、外気が低温側です。絶対温度に直します。
THTL=20+273=293 [K]=2+273=275 [K]COPh=TH−TLTH=293−275293=18293≒16.3(2) 冷房では、室内が低温側、外気が高温側になり、TH と TL の役が入れ替わります。
TLTH=27+273=300 [K]=35+273=308 [K]COPc=TH−TLTL=308−300300=8300=37.5答え:(1) 約 16.3、(2) 37.5
暖房能力と消費電力量の計算
暖房能力は、高温側へ出す熱の大きさ QH [kW] で表します。COP が分かれば、消費電力と、外気から吸う熱が求められます。
WQL=COPhQH=QH−W
熱量 [kJ] と電力量 [kWh] をつなぐときは、1 kWh=3600 kJ で換算します。電気ヒーターは電力がそのまま熱になるので COP=1 にあたり、同じ熱を出すのに、ヒートポンプより多くの電力量が必要です。
| 比べる点 | 電気ヒーター | ヒートポンプ |
|---|
| 熱の出どころ | 電力を熱に変える | 外の熱を運ぶ |
| COP | 1 | 1 より大きい |
| 同じ熱の電力量 | 大きい | 小さい |
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(1) 消費電力は W=QH/COPh から求めます。
W=4.59.0=2.0 [kW]外気から吸う熱は、熱の収支から次のとおりです。
QL=QH−W=9.0−2.0=7.0 [kW](2) 消費電力量は、消費電力に時間を掛けます。
2.0×10=20 [kWh]同じ熱を電気ヒーター(COP=1)で出すと、9.0×10=90 kWh が必要です。
答え:(1) W=2.0 kW、QL=7.0 kW、(2) 20 kWh
ヒートポンプ給湯機のしくみ
ヒートポンプ給湯機は、同じしくみで空気の熱を使い、水を温めます。ヒートポンプのユニットが空気の熱を冷媒に集め、圧縮して高温にし、タンクの水を温めて湯にします(図7)。電気ヒーターで直接沸かす方式より、少ない電力量で同じ湯を沸かせます。
1タンク2配管3小型ユニット- タンク 湯をためる
- 配管 タンクとユニットをつなぐ
- 小型ユニット 空気の熱を集める
図7 縦長のタンクと小型のユニットが配管でつながる給湯機の例(写真はイメージ)
水を温めるのに必要な熱量は、電熱の計算で学んだ Q=mcΔT で求めます(m は水の質量、c は比熱、ΔT は温度の上がり幅)。そのうえで COP を使うと、消費電力量が求められます。
解答と解説を見る
水を温めるのに必要な熱量を、Q=mcΔT で求めます。
Q=mcΔT=300×4.2×(55−15)=50400 [kJ]1 kWh=3600 kJ なので、kWh に直します。
360050400=14 [kWh]ヒートポンプの消費電力量は、この熱量を COP で割ります。
W=3.014≒4.67 [kWh]電気ヒーターは COP=1 にあたるので、必要な電力量は熱量と同じ 14 kWh です。
答え:ヒートポンプ約 4.67 kWh、電気ヒーター 14 kWh
蓄熱とヒートポンプ
ヒートポンプは、電力の使用が少ない夜間に動かして、熱をためておく使い方もあります。夜間の電力で氷や温水をつくって蓄熱槽にためておき、昼間の冷暖房や給湯に使います。昼間の電力の使用が減るので、1日の電力の山と谷の差が小さくなります。これを負荷平準化といいます。電力の余る時間帯に動かして蓄える点は、揚水発電と同じ考え方です。
大規模な設備では、熱を出し入れするファンつきの機器が、建物の外壁や屋上に並びます(図8)。
図8 大きな建物の外壁と屋上に、ファンつきの機器が並ぶ(写真はイメージ)
ランキンサイクルと向きが逆のサイクル
ランキンサイクルは、ボイラで高温の熱を受け取り、タービンで仕事を取り出し、復水器で低温側へ熱を捨てます。ヒートポンプは、これと向きが逆で、仕事(電力)を加えて、低温側から高温側へ熱を運びます。
| 比べる点 | ヒートポンプ | ランキン |
|---|
| 目的 | 熱を運ぶ | 仕事を得る |
| 熱の向き | 低温から高温 | 高温から低温 |
| 電力 | 使う | 発電する |
| 流体 | 冷媒 | 水と蒸気 |
ランキンサイクルはランキンサイクルとは、熱機関としての効率は火力発電の熱効率で扱います。
よくある質問
暖房と冷房で、COP の式はなぜ違うのですか。
目的の熱が違うからです。暖房は高温側へ出す熱 QH、冷房は低温側から吸う熱 QL が目的なので、どちらも電力 W で割りますが、分子が変わります。QH=QL+W から、COPh=COPc+1 の関係が出ます。
理想の COP の式に、℃ のまま代入してはいけないのはなぜですか。
式が、熱量の比と絶対温度の比が等しいこと(QH/QL=TH/TL)から導かれているからです。0 ∘C は絶対零度ではなく、℃ のままでは温度の比が成り立ちません。T=t+273 で K に直してから使います。
外気温が低いと、暖房の COP が下がるのはなぜですか。
低温側の温度 TL が下がり、温度差 TH−TL が大きくなるためです。理想の式 TH/(TH−TL) では、分母が増えて値が小さくなります。実際の機器でも、外気が冷たいほど温度差をくみ上げる負担が増え、COP は下がる傾向があります。
ヒートポンプは、なぜ冷房と暖房の両方に使えますか。
四方弁で冷媒の流れる向きを切り替えられるからです。向きを変えると、室内側が蒸発器になるか凝縮器になるかが入れ替わり、熱を運ぶ向きが逆になります。
思い出してみよう
答えを見る前に、まず自分で思い出してからタップしてください。
ヒートポンプは、電力を使って何をしますか?
低温側の熱を、高温側へ運びます。自然には流れない向きなので、電力 W が要ります。
冷凍サイクルの4機器を、冷媒が通る順に言うと?
暖房と冷房の COP の式と、2つの関係は?
COPh=QH/W、COPc=QL/W で、COPh=COPc+1 です。
理想の暖房の COP を求める式は? 温度は何で表しますか?
COPh=TH/(TH−TL) で、温度は絶対温度 [K] です。
外気温が下がると、暖房の COP はどうなりますか?
蓄熱は、何のために行いますか?
夜間の電力で熱をためて昼に使い、昼間の電力の使用を減らす(負荷平準化)ためです。
まとめ
- ヒートポンプは、電力 W を使って、低温側の熱を高温側へ運ぶ。冷媒が圧縮機・凝縮器・膨張弁・蒸発器を回る
- 熱の収支は QH=QL+W。暖房 COPh=QH/W、冷房 COPc=QL/W で、COPh=COPc+1
- 理想の COP は COPh=TH/(TH−TL)、COPc=TL/(TH−TL)。温度は絶対温度 [K]、温度差が小さいほど大きい
- 暖房能力 QH と COP から、消費電力は W=QH/COPh。電力量は kWh、熱量は kJ(1 kWh=3600 kJ)をそろえて計算する
- 夜間の電力で熱をためて昼に使うのが蓄熱で、負荷平準化につながる
COP の計算の土台になる熱量と kWh の換算は、電熱の計算で復習できます。次は、光を数で表す光の量と単位へ進みましょう。