前の記事の電位の求め方では、止まっている電荷がつくる電界と電位を学びました。電荷が動くと、つまり電流が流れると、そのまわりには必ず磁界ができます。モーターも変圧器も、この1つの事実から始まります。
この記事では、磁界の強さ H と磁束密度 B の意味、右ねじの法則、直線電流・円形コイル・ソレノイドの磁界の公式、電磁力 F=BIl とフレミングの左手、磁気回路の考え方を、例題で確かめます。
磁界の強さの全体像
- 磁界とは
- 磁界の強さ H [A/m]、磁束密度 B [T]、磁束 Φ [Wb]。B = μH
- 電流がつくる磁界の向きは、右ねじの法則で決まる
- 電流がつくる磁界の強さ
- 直線電流 H = I/(2πr)、円形コイルの中心 H = NI/(2r)
- ソレノイドの内部 H = nI
- 電磁力
- F = BIl sinθ。向きはフレミングの左手
- 平行な2本の導体は、同じ向きなら引き合い、逆向きなら反発する
- 磁気回路と電磁石
- 起磁力 NI、磁気抵抗 Rm = l/(μS)、Φ = NI/Rm
- 例題
磁界とは
磁石や電流のまわりには、鉄を引きつけたり方位磁針を振らせたりする、磁気の力が働く空間ができます。この空間を磁界(磁場)といいます。磁界には向きと強さがあり、向きは、その点に置いた方位磁針の N 極が指す向きです。
電流が磁界をつくることは、1820年にエルステッドが方位磁針の実験で見つけました。導線に電流を流すと、そばの方位磁針が振れます。
1電池ボックス2銅線3方位磁針- 電池ボックス 電流を流す電源
- 銅線 電流が流れる導体
- 方位磁針 N 極が磁界の向きを指す
図1 エルステッドの実験のイメージ。導線に電流を流すと、そばの方位磁針が振れて、電流のまわりに磁界ができることが分かる(写真はイメージ)
磁界を表す量は3つあります。次の表にまとめます。
| 量 | 記号と単位 | 意味 |
|---|
| 磁界の強さ | H[A/m] | 電流がつくる磁界の大きさ |
| 磁束密度 | B[T] | 磁力線の密度 |
| 磁束 | Φ[Wb] | 面を貫く磁力線の本数 |
磁束密度は、磁界の強さに透磁率 μ[H/m](磁気の通しやすさ)を掛けたものです。面積 S[m2] の面を垂直に貫く磁束は、磁束密度に面積を掛けて求めます。
BΦ=μH[T]=BS[Wb]
真空の透磁率は μ0=4π×10−7[H/m] で、空気中もほぼ同じです。鉄などの強磁性体の透磁率 μ は、真空の数百倍以上になります。μ と μ0 の比 μr=μ/μ0 を、比透磁率といいます。
電流がつくる磁界の向き(右ねじの法則)
直線の導線に電流を流すと、導線を中心にした同心円の磁界ができます。向きは、右ねじの法則で決まります。右ねじを電流の向きに進めるとき、ねじを回す向きが磁界の向きです。
図2 右ねじの法則。電流の向きにねじを進めると、ねじを回す向きが磁界の向きになる
紙面で電流が手前向き(⊙)なら磁界は反時計まわり、奥向き(⊗)なら時計まわりです。導線から離れるほど、磁界は弱くなります。
電流がつくる磁界の強さ
導線を細かく分けると、各部分の電流が距離 r の点につくる磁界は、次のビオ・サバールの法則で表せます。電流の素片 IΔl と、素片から点を見る向きとの角を θ として、
ΔH=4πr2IΔlsinθ[A/m]
これをすべての部分について足し合わせると、導線の形ごとの公式が得られます。試験では、次の3つの形の結果を使います。
直線電流
無限に長い直線の導線に電流 I[A] を流すと、導線から距離 r[m] の点の磁界の強さは、
H=2πrI[A/m]
です。電流に比例し、距離に反比例します。磁界の向きは、図2 の右ねじの法則で決まります。
円形コイルの中心
半径 r[m]、巻数 N の円形コイルに電流 I[A] を流すと、中心の磁界の強さは、
H=2rNI[A/m]
です。輪のどの部分の電流も、中心では同じ向きの磁界をつくるので、重なって強くなります。巻数が多いほど、半径が小さいほど強くなります。
図3 円形コイルの磁界。輪の中を通る磁界はコイルの中心で最も強く、H=NI/(2r)
ソレノイド
導線を円筒状に密に巻いたコイルを、ソレノイドといいます。長さ l[m] に N 回巻いたとき、1 m あたりの巻数は n=N/l です。十分に長いソレノイドの内部は、向きも強さもそろった一様な磁界で、
H=nI=lNI[A/m]
です。内部の磁界は半径や位置によらず一定で、外側の磁界は内部に比べてとても弱くなります。
図4 ソレノイドの内部は向きと強さがそろった磁界になる。H=nI(n は 1 m あたりの巻数)
ソレノイドを円環状に巻いた環状ソレノイドでは、磁界は環の内部だけにでき、平均半径 r[m] の環の内部で、
H=2πrNI[A/m]
になります。2πr は環の長さ(磁路の長さ)なので、H=NI/l と同じ形です。
図5 エナメル線を巻いたコイル。巻数が多いほど、同じ電流でも磁界は強くなる(写真はイメージ)
4つの形をまとめると、次の表になります。
| 形 | 磁界の強さ H | 場所 |
|---|
| 直線電流 | I/(2πr) | 導線から r |
| 円形コイル(N 巻) | NI/(2r) | 中心 |
| ソレノイド | nI=NI/l | 内部 |
| 環状ソレノイド | NI/(2πr) | 環の内部 |
電磁力とフレミングの左手
磁界の中を流れる電流は、力を受けます。この力を電磁力といい、モーターが回る原理です。スピーカーでは、コーンに付いたコイル(ボイスコイル)に音の電流を流すと、磁石の磁界から力を受けてコイルが前後に動き、コーンを振動させて音を出します。
1ボイスコイル2磁石3コーン- ボイスコイル 電流が流れる銅線
- 磁石 磁界をつくる
- コーン コイルの動きで空気を揺らす
図6 分解したスピーカー。磁石の磁界の中のコイルに電流を流すと、電磁力でコイルが動き、コーンが振動する(写真はイメージ)
電磁力の大きさ F=BIl sinθ
磁束密度 B[T] の一様な磁界の中に、長さ l[m] の導体を置き、電流 I[A] を流します。導体と磁界の向きの間の角を θ とすると、導体が受ける力は、
F=BIlsinθ[N]
です。磁界と導体が直角(θ=90∘)のとき最大で F=BIl、平行(θ=0∘)のときは力が働きません。
電磁力の向き(フレミングの左手)
力の向きは、フレミングの左手の法則で決まります。左手の親指・人差し指・中指を互いに直角に開き、中指を電流、人差し指を磁界の向きに合わせると、親指が力の向きになります。頭文字から、「電・磁・力」(中指・人差し指・親指)と覚えます。
図7 電磁力の向き。磁界 B(右向き)の中で、電流の向きを逆にすると力の向きも逆になる
図は、磁界が右向きの中で、電流の向きを逆にすると力も逆になることを示しています。電流が奥向き(⊗)なら力は下向き、手前向き(⊙)なら上向きです。
右手を使うフレミングの右手の法則は、導体を動かして起電力をつくる、発電機の側の法則です。左手と右手の使い分けは、次の記事の電磁誘導とはで整理します。
平行な2本の導体にはたらく力
距離 r[m] だけ離して平行に置いた、2本の長い導体に、電流 I1、I2 を流します。導体1が導体2の位置につくる磁束密度は B1=μ0I1/(2πr) で、導体2の長さ l の部分が受ける力は F=B1I2l です。1 m あたりの力にすると、
lF=2πrμ0I1I2[N/m]
です。真空中なら μ0/(2π)=2×10−7 なので、F/l=2×10−7I1I2/r とも書けます。
図8 平行な 2 本の導体の力。同じ向きの電流は引き合い、逆向きの電流は反発する
2本の電流が同じ向きなら引き合い(引力)、逆向きなら反発し合います(斥力)。力の大きさは、どちらの導体も同じです。
磁気回路と電磁石
鉄心にコイルを巻いて電流を流すと、磁束は鉄心の中を通ります。鉄は透磁率が大きく、磁束を通しやすいためです。磁束の通り道を磁気回路といい、電気回路とよく似た式で考えられます。
磁束を流す原動力は、コイルの巻数と電流の積で、起磁力といいます。単位は A です。磁束の通りにくさを表すのが磁気抵抗で、長さ l[m]、断面積 S[m2]、透磁率 μ[H/m] の鉄心では、
RmΦ=μSl[A/Wb]=RmNI[Wb]
です。電気回路の I=E/R と、R=ρl/S の形に、そっくり対応します。
図9 磁気回路と電気回路の対応。起磁力 NI は起電力 E、磁気抵抗 Rm は抵抗 R、磁束 Φ は電流 I にあたる
| 電気回路 | 磁気回路 |
|---|
| 起電力 E[V] | 起磁力 NI[A] |
| 電流 I[A] | 磁束 Φ[Wb] |
| 抵抗 R[Ω] | 磁気抵抗 Rm[A/Wb] |
| I=E/R | Φ=NI/Rm |
電気回路のオームの法則は、直列回路とオームの法則で確かめられます。
磁気抵抗が小さいほど、同じ起磁力で磁束が多く流れます。鉄心を入れると μ が大きくなって Rm が小さくなるので、同じ NI でも磁束が数百倍以上に増えます。ただし、磁束密度が大きくなると鉄心の透磁率が下がる磁気飽和が起き、Φ=NI/Rm は成り立たなくなります。この式を使うのは、飽和より下の範囲です。
鉄心にコイルを巻いて、電流で磁力を出し入れできるようにしたものが電磁石です。電流を流すと鉄を引きつけ、切ると磁力が消えます。クレーンの先に付けて、鉄くずを持ち上げるのに使われます。
1電磁石2鉄くず3クレーンのアーム- 電磁石 コイルに電流を流す
- 鉄くず 磁力で吸いつく
- クレーンのアーム 電磁石を吊る
図10 クレーンの電磁石。コイルに電流を流している間は鉄くずを吸いつけ、電流を切ると落とせる(写真はイメージ)
電磁石の極は、右手を使って決められます。コイルに電流が流れる向きに右手の4本指を合わせて握ると、親指の向きが N 極です。電流を逆にすると、N 極と S 極は入れ替わります。
磁界の例題(磁界の強さ・電磁力・磁気回路)
計算に入る前に、問われ方と使う式を表にまとめます。
| 問われること | 使う式 | 注意 |
|---|
| 直線電流の磁界 | H=I/(2πr) | r は m にそろえる |
| 円形コイルの中心 | H=NI/(2r) | 巻数 N を掛ける |
| 電磁力 | F=BIlsinθ | θ は導体と磁界の角 |
| 平行な導体の力 | F/l=μ0I1I2/(2πr) | 向きが同じなら引力 |
| 磁気回路 | Φ=NI/Rm | S は m² にそろえる |
以下、μ0=4π×10−7[H/m] とします。
直線電流の磁界
解答と解説を見る
r=0.1[m] です。
H=2πrI=2π×0.120=π100≈31.8[A/m]B=μ0H=4π×10−7×π100=4×10−5[T]距離が2倍の 20[cm] では、H も B も 1/2 です。
HB≈15.9[A/m]=2×10−5[T]
円形コイルの中心の磁界
解答と解説を見る
(1) r=0.1[m] です。
H=2rNI=2×0.120×5=500[A/m]B=μ0H=4π×10−7×500=2π×10−4≈6.28×10−4[T](2) 半径が 1/2 なので、H は2倍です。
H=1000[A/m]
磁界の中の導体が受ける力
解答と解説を見る
(1) θ=90∘ で、sinθ=1 です。
F=BIl=0.4×8×0.25=0.8[N](2) sin30∘=0.5 です。
F=BIlsin30∘=0.8×0.5=0.4[N](3) 人差し指を右(磁界)、中指を奥(電流)に向けると、親指は下を向きます。力は下向きです。
平行な2本の導体の力
解答と解説を見る
lF=2πrμ0I1I2=0.22×10−7×100×50=5×10−3[N/m]電流の向きが同じなので、力は引力です。逆向きなら、同じ大きさの斥力になります。
環状鉄心の磁界と磁気抵抗
解答と解説を見る
S=4×10−4[m2]、μ=500μ0 です。
H=lNI=0.5500×0.5=500[A/m]B=μ0×500×H=4π×10−7×500×500≈0.314[T]Φ=BS=0.314×4×10−4≈1.26×10−4[Wb]磁気抵抗を求めます。μ=500μ0=2π×10−4[H/m] なので、μS=8π×10−8 です。
Rm=μSl=8π×10−80.5≈1.99×106[A/Wb]確かめると、Φ=NI/Rm=250/(1.99×106)≈1.26×10−4[Wb] で、BS と一致します。
よくある質問
磁界の強さ H と磁束密度 B は何が違う?
H は電流とコイルの形で決まる量で、鉄心があるかどうかによりません。B は、その磁界の中での磁力線の密度で、B=μH です。同じ H でも、鉄心に入れると μ が大きくなるので、B は数百倍以上になります。
右ねじの法則とフレミングの左手は、どう使い分ける?
右ねじの法則は、電流から磁界の向きを知るときに使います。フレミングの左手は、磁界の中にある電流が受ける力の向きを知るときに使います。「電流が磁界をつくる」のが右ねじ、「電流と磁界が力をつくる」のが左手、と分けて覚えます。
ソレノイドの外側の磁界は、どうなっている?
十分に長いソレノイドでは、内部の磁界が nI で一様なのに対し、外側の磁界は内部よりずっと弱く、無限に長ければ 0 とみなせます。環状ソレノイドでは、磁界は環の内部だけにでき、外へ漏れません。
同じ向きの電流の導体が引き合うのは、なぜ?
導体1の電流が、導体2の位置に磁界をつくります。その磁界の中の導体2の電流に、フレミングの左手で力の向きを決めると、導体1に向かう向きになります。同じことが導体1にも起きるので、互いに引き合います。逆向きの電流では、力の向きも逆になって反発します。
思い出してみよう
答えを見る前に、まず自分で思い出してからタップしてください。
磁界の強さ H、磁束密度 B、磁束 Φ の関係は?
B=μH、Φ=BS です。真空の透磁率は μ0=4π×10−7[H/m] です。
直線電流がつくる磁界の強さは?
H=I/(2πr) です。電流に比例し、距離に反比例します。
円形コイルの中心と、ソレノイドの内部の磁界の強さは?
円形コイルの中心は H=NI/(2r)、ソレノイドの内部は H=nI=NI/l です。
磁界の中の導体が受ける力の大きさと向きは?
F=BIlsinθ です。向きはフレミングの左手で、中指が電流、人差し指が磁界、親指が力です。
平行な2本の導体の力は、どう決まりますか。
1 m あたり μ0I1I2/(2πr) です。同じ向きの電流は引き合い、逆向きは反発します。
磁気回路の磁束は、どう求めますか。
Φ=NI/Rm です。磁気抵抗は Rm=l/(μS) で、電気回路の I=E/R に対応します。
まとめ
- 磁界の強さ H[A/m] は電流がつくる量で、磁束密度は B=μH、磁束は Φ=BS。電流がつくる磁界の向きは右ねじの法則で決まる
- 磁界の強さは、直線電流が H=I/(2πr)、円形コイルの中心が H=NI/(2r)、ソレノイドの内部が H=nI
- 磁界の中の電流は、F=BIlsinθ の力を受ける。向きはフレミングの左手。平行な2本の導体は、同じ向きなら引き合い、逆向きなら反発する
- 磁気回路は、Φ=NI/Rm、Rm=l/(μS) で、電気回路の I=E/R と同じ形。電磁石は、鉄心にコイルを巻いて磁力を出し入れする
磁界が時間とともに変わると起電力が生じます。次は電磁誘導とはへ、発電機の起電力は直流発電機の誘導起電力へ進みましょう。