パワーエレクトロニクスとは|サイリスタ・IGBT など半導体スイッチの違い
電験三種の機械で問われるパワーエレクトロニクスの基本を図解します。整流・インバータ・チョッパの 4 つの電力変換、サイリスタのターンオンとターンオフ、GTO・MOSFET・IGBT の違いを例題で確認できます。

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パワーエレクトロニクスは、半導体のスイッチを開け閉めして、電圧・周波数・交流か直流かを自由に変える技術です。電動機や変圧器の記事では、電源を決まった電圧・周波数のものとして扱いましたが、インバータエアコンも電車も、中身はこのスイッチで電力を作り変えています。この記事では、スイッチに使うサイリスタ・GTO・MOSFET・IGBT の違いを、図と例題で整理します。
- パワーエレクトロニクスとは
- 半導体のスイッチで電力を変換する技術。整流・インバータ・チョッパなど
- スイッチに使う理由
- オンで電圧 0、オフで電流 0 なので、損失がほとんど出ない
- 素子の種類と回路記号
- ダイオード・サイリスタ・GTO・トランジスタ・MOSFET・IGBT
- サイリスタの動作
- ゲート電流でオンになり、電流が保持電流以下になるとオフ。自分では切れない
- 自己消弧形と IGBT
- ゲートでオンもオフもできる。IGBT はインバータなどで広く使われる
- 損失・例題・間違えやすいところ
- オン損失とスイッチング損失
パワーエレクトロニクスとは?4 つの電力変換
パワーエレクトロニクスとは、パワー半導体(大きな電力を扱う半導体素子)をスイッチとして使い、電力の形を変えたり量を調整したりする技術です。変換は、変換の前後が交流か直流かで 4 種類に分けられます(図1)。
- 整流:交流を直流にする。充電器の電源の入口など
- インバータ:直流を交流にする。周波数と電圧を自由に変えられる
- チョッパ:直流の電圧を変える
- サイクロコンバータなど:交流の周波数や電圧を、直流を経由せずに変える
整流・チョッパ・インバータの 3 つは、この後の記事で 1 本ずつ扱います。どの変換も、使うのは「スイッチを入れる・切る」という動作だけです。図2の電車の床下にある箱の中にも、モーターを動かすためのインバータが収められています。

- 機器箱 電力変換装置などが入る
- 通風口 機器の熱を逃がす
- 台車の車輪 電動機の力で回る
- 客室 床下の機器とは別の部分
パワー半導体をスイッチに使う理由
電圧や電流を変えるだけなら、抵抗を直列に入れる方法もあります。ただ、抵抗には電流が流れて電圧もかかるので、その積 がそのまま熱になって捨てられます。たとえば の電源から、抵抗を使って負荷に ・ を送ると、抵抗でも が熱になります。
スイッチなら話が変わります(図3)。
- オンのとき、スイッチの電圧 はほぼ 0。電流が流れても、損失 は 0
- オフのとき、電流 は 0。電圧がかかっても、損失 は 0
理想のスイッチはどちらの状態でも損失が 0 です。オンとオフの時間の割合を変えるだけで、負荷に送る電力を調整できます。実際の素子はオン電圧が少しあり、切り替える瞬間にも損失が出ますが、抵抗で調整するよりずっと小さく済みます。これが、パワーエレクトロニクスがスイッチを使う理由です。
半導体素子の種類と回路記号
パワーエレクトロニクスで使う主な素子は 6 つです。回路記号は図4のとおりです。青い囲みの素子は、制御端子の信号でオフにもでき、橙の囲みの素子は自分では切れません。ダイオードの働きはダイオード、トランジスタの働きはトランジスタの記事で確認できます。
端子の名前は素子ごとに違います。
| 素子 | 主電流の端子 | 制御端子 |
|---|---|---|
| ダイオード | A(アノード)→ K(カソード) | なし |
| サイリスタ・GTO | A → K | G(ゲート) |
| トランジスタ | C(コレクタ)→ E(エミッタ) | B(ベース) |
| パワー MOSFET | D(ドレイン)→ S(ソース) | G(ゲート) |
| IGBT | C → E | G(ゲート) |
実際のパワー半導体は、素子のチップを樹脂の外装に収め、大電流用のねじ端子と放熱用の底板を付けた「モジュール」の形で使われます(図5)。

- 主端子 大電流をつなぐねじ
- 外装 中に素子のチップが入る
- 底板 熱を放熱器へ伝える
- 取付け穴 放熱器にねじで固定する
サイリスタのターンオンとターンオフ
サイリスタは、アノード A・カソード K・ゲート G の 3 つの端子をもつ素子です。
- ターンオン(オンになる):A が K より高い電圧(順電圧)のとき、ゲートに小さな電流を短時間流すと、A から K へ電流が流れ始める。いったんオンになれば、ゲート電流を止めてもオンのままで続く
- ターンオフ(オフになる):アノード電流が保持電流(オンを保てる最小の電流)以下に下がるか、逆電圧がかかるとオフになる。ゲートからは切れない
交流電源につないだ半波回路で、動作を見てみます(図6)。電源電圧 が正になってから、角度 だけ遅れてゲートパルスを入れると、サイリスタがオンになって負荷に電流が流れます。電源電圧が 0 になる 180° で電流も 0 になってオフになり、逆電圧のあいだは電流が流れません。
この遅れの角度 を制御角といいます。 を大きくすると電流の流れる時間が短くなり、負荷に送る電力が小さくなります。制御角と出力電圧の関係は、整流回路の記事で式にして確かめます。
交流では電流が自然に 0 になるので、サイリスタはオフになれます。直流では電流が 0 にならないため、サイリスタだけでは切れません。
自己消弧形の比較:GTO・トランジスタ・MOSFET・IGBT
ゲート(ベース)の信号で、オンもオフもできる素子を自己消弧形といいます。サイリスタと違い、直流でも自分で電流を切れるので、インバータやチョッパに使えます。素子は、ゲートで切れるかどうかと、駆動の方式で分けて整理できます(図7)。
オンにする方法とオフにする方法を、素子ごとに比べます。
| 素子 | オンにする方法 | オフにする方法 |
|---|---|---|
| ダイオード | 順電圧を加える | 逆電圧、または電流が 0 になる |
| サイリスタ | ゲート電流(パルス) | 電流を保持電流以下に、または逆電圧 |
| GTO | ゲートに正の電流 | ゲートに負の電流(引き抜く) |
| トランジスタ | ベース電流を流す | ベース電流を 0 にする |
| パワー MOSFET | ゲート電圧を加える | ゲート電圧を 0 にする |
| IGBT | ゲート電圧を加える | ゲート電圧を 0 にする |
トランジスタと GTO は、電流を流し続けて駆動する電流駆動です。MOSFET と IGBT は、ゲートに電圧を加えるだけで駆動できる電圧駆動で、駆動に必要な電力が小さく済みます。
扱える電力とスイッチングの速さの、おおまかな目安は次のとおりです。
| 素子 | 扱える電力 | スイッチングの速さ |
|---|---|---|
| サイリスタ | 非常に大きい | 遅い |
| GTO | 大きい | 遅い〜中程度 |
| トランジスタ | 中程度 | 中程度 |
| パワー MOSFET | 小〜中 | 速い |
| IGBT | 中〜大 | 中程度〜速い |
IGBT が広く使われる理由と損失
IGBT は、入力側のゲートは MOSFET と同じ電圧駆動で、出力側は大きな電流と電圧を扱えます。駆動が簡単で、中容量から大容量まで対応でき、スイッチングも十分に速いので、インバータエアコン、電車、太陽光発電のパワーコンディショナ、電気自動車の充電器など、幅広い装置に使われています。
素子で生じる損失は 2 種類あります。
- オン損失:オンのあいだ、オン電圧と電流の積で生じる損失
- スイッチング損失:オンとオフの切り替えの短いあいだ、電圧と電流が同時に大きくなって生じる損失
図8は、電圧 と電流 を線形に変化させた簡単なモデルで、損失 を描いたものです。切り替えの瞬間だけ大きな山ができ(スイッチング損失)、オンのあいだは電圧が小さいので損失も小さく平らです(オン損失)。
平均の損失は、次のように求められます。
はオン電圧、 はオン中の電流、 は 1 周期のうちオンの時間の割合、 は 1 周期(オンとオフを 1 回ずつ)の切り替えで生じる損失のエネルギー、 はスイッチング周波数です。周波数を上げると、1 秒間の切り替えの回数が増えるので、スイッチング損失も増えます。
損失はすべて熱になります。素子が壊れないように、放熱器(ヒートシンク)で熱を空気へ逃がします(図9)。

- フィン 表面積を広げて熱を逃がす
- ベース板 素子を取り付ける面
- ねじ穴 素子を固定する
電気自動車の急速充電器のように、交流を直流に変換して大きな電力を送る装置でも、パワー半導体が使われます(図10)。

- ケーブル 変換した電力を車へ送る
- 充電器本体 電力変換の装置が入る
- 充電口 車の電池につながる
例題と間違えやすいところ
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正解は (2) です。
- (1) サイリスタは、ゲート電流を止めてもオンのままです。オフにするには、電流を保持電流以下にするか、逆電圧を加えます。
- (2) GTO は、ゲートに負の電流を流すと自分でオフになれる自己消弧形です。
- (3) MOSFET は電圧駆動で、ゲートに電圧を加えます。ゲートの電流はほとんど流れません。
- (4) ダイオードにゲートはありません。順電圧がかかるとオンになります。
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アノード電流が保持電流以下に下がったときです。抵抗負荷では、電源電圧が 0 になる 180° で電流も 0 になります。その後は逆電圧がかかるので、ゲートパルスが入っても流れません(図6)。
ゲート電流を止めただけでは、オフになりません。
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正解は (4) です。直流は電流が 0 にならないので、普通のサイリスタはいったんオンになると自分では切れません。インバータには、ゲートで切れる IGBT などの自己消弧形を使います。
(1) は MOSFET が高速で小〜中容量に向くこと、(2) はサイリスタが非常に大きな電力を扱えること、(3) は IGBT が広く使われることに合っています。
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オン損失は、オン電圧・電流・オンの時間の割合の積です。
スイッチング損失は、1 周期のエネルギーに周波数を掛けます。
合計は です。
間違えやすい点を表にまとめます。
| よくある間違い | 正しくは |
|---|---|
| サイリスタはゲートを切ればオフになる | ゲートでは切れない。電流が保持電流以下か、逆電圧でオフ |
| MOSFET も IGBT も電流で駆動する | どちらも電圧駆動。電流駆動はトランジスタと GTO |
| スイッチング損失はオンのあいだも出る | 切り替えの短いあいだに出る。周波数が高いほど増える |
| 直流でも、サイリスタは自然にオフになる | 直流は電流が 0 にならない。切るには転流回路が必要 |
よくある質問
サイリスタと IGBT は、何が違いますか?
サイリスタは、ゲートでオンにするだけで、オフは電流が 0 近くに下がるのを待つ素子です。IGBT は、ゲート電圧でオンもオフもでき、すばやく切り替えられます。サイリスタは交流を整流する大電力の装置に、IGBT は直流から交流をつくるインバータやチョッパに向いています。
IGBT は、MOSFET とバイポーラトランジスタのどちらに近いですか?
どちらの性質ももっています。入力側(ゲート)は、MOSFET と同じ電圧駆動です。出力側(コレクタとエミッタの間)は、バイポーラトランジスタのように大きな電流を流せます。名前の絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor)も、この組み合わせを表しています。
「自己消弧」とは、どういう意味ですか?
素子が、自分のゲート信号で電流を切れることです。サイリスタも交流なら、電流が自然に 0 になってオフになれます。しかし直流では電流が 0 にならないので、サイリスタを切るには、別に転流回路が必要です。自己消弧形ならゲート信号だけで切れます。
なぜ、抵抗ではなくスイッチで電力を変えるのですか?
抵抗では、 を に下げるとき、下げた分の電力が熱になって失われます。スイッチは、オンのときは電圧が 0、オフのときは電流が 0 なので、スイッチ自身はほとんど熱を出しません。損失が小さく、効率よく電力を変えられるからです。
思い出してみよう
答えを見る前に、まず自分で思い出してからタップしてください。
パワーエレクトロニクスの 4 つの電力変換は何ですか?
整流(交流を直流に)、インバータ(直流を交流に)、チョッパ(直流の電圧を変える)、サイクロコンバータなど(交流の周波数や電圧を変える)です。
スイッチに使うと損失が小さいのは、なぜですか?
オンのときは電圧が 0、オフのときは電流が 0 で、損失 がほぼ 0 になるからです。
サイリスタをオンにする方法と、オフになる条件は何ですか?
ゲートに電流を流してオンにします。オフは、アノード電流が保持電流以下になるか、逆電圧がかかったときで、ゲートでは切れません。
ゲートでオフにできる自己消弧形の素子を 4 つ挙げてください。
GTO、トランジスタ、パワー MOSFET、IGBT です。
電圧駆動の素子はどれで、電流駆動の素子はどれですか?
電圧駆動は MOSFET と IGBT です。トランジスタと GTO は電流駆動です。
素子の損失の 2 種類と、周波数との関係を答えてください。
オン損失とスイッチング損失です。スイッチング損失は、スイッチング周波数が高いほど増えます。
まとめ
- パワーエレクトロニクスは、半導体のスイッチで電力を変換する技術。整流・インバータ・チョッパ・サイクロコンバータなどがある
- スイッチは、オンで電圧 0、オフで電流 0 なので、損失が小さい
- サイリスタはゲート電流でオンになり、電流が保持電流以下になるか逆電圧がかかるとオフになる。ゲートでは切れない
- GTO・トランジスタ・MOSFET・IGBT は自己消弧形。IGBT はインバータなどに広く使われる
- 損失は、オン損失とスイッチング損失。スイッチング損失は周波数が高いほど増える
| 素子 | ゲートで切れるか | 駆動 |
|---|---|---|
| サイリスタ | 切れない | 電流 |
| GTO | 切れる | 電流 |
| トランジスタ | 切れる | 電流 |
| パワー MOSFET | 切れる | 電圧 |
| IGBT | 切れる | 電圧 |
次の記事では、サイリスタの制御角と出力電圧の関係を、整流回路で計算します。直流の電圧を変えるチョッパ、直流から交流をつくるインバータもあわせて確認できます。








