直流送電とは|交流送電との違い・利点と欠点・周波数変換所のしくみを図解
電験三種の直流送電(HVDC)を図で解説します。交直変換のしくみ、他励式と自励式の違い、交流送電と比べた利点と欠点、周波数変換所とBTBまでを、電力比や損失を求める4つの例題で確認できます。

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直流送電は、送電線の途中を直流にして電力を送る方式です。送電はふつう交流で行いますが、長い海底ケーブルや、周波数の違う地域どうしの連系には、直流が使われます。この記事では、交直変換のしくみから利点と欠点、周波数変換所と BTB までを、図と例題で順にたどります。
- 直流送電とは
- 交流 → 直流 → 交流。両端に変換所が要る
- 交直変換器
- 他励式はサイリスタ、自励式は IGBT など
- 利点
- 無効電力・充電電流・安定度の制約が小さい
- 欠点
- 変換所が高価、高調波が出る、遮断が難しい
- 周波数変換所と BTB
- 50 Hz と 60 Hz を直流でつなぐ
直流送電とは
直流送電は、HVDC(High Voltage Direct Current)とも呼ばれます。発電所でつくる電力も、家庭や工場で使う電力も、系統は交流です(図1)。直流送電は、その間の送電線の部分だけを直流にします。

送電端で交流を直流に変えることを順変換、受電端で直流を交流に戻すことを逆変換と呼びます。順変換を行う設備と逆変換を行う設備を、それぞれ順変換器・逆変換器と呼び、これらを置いた施設が変換所です(図2)。
変換所には、変換器のほかに、変圧器、交流側・直流側のフィルタ、遮断器などが置かれます(機器の役割は変電所の役割と構成機器で扱います)。直流の送電線は、正極と負極の2本で構成します。両端の変換所は、制御によって順変換と逆変換の役を入れ替えられるので、電力の向きも変えられます。
交直変換器のしくみ(他励式と自励式)
交流を直流に変えるのは整流回路(整流回路とは)、直流を交流に変えるのはインバータ(インバータの仕組み)でした。直流送電の変換器は、その考え方を大電力に広げたものです。素子を直列にたくさん積み重ねて、高い電圧に耐えるようにしています(図3)。

- がい管 高電圧部を絶縁
- 素子ユニット 段に積み重ねる
- 支持がいし 床との間を絶縁
変換器は、使う素子と電流の切り方で、他励式と自励式に分かれます。
| 項目 | 他励式 | 自励式 |
|---|---|---|
| 素子 | サイリスタ | IGBT など |
| 電流を切る | 交流電圧で | 素子が自分で |
| 無効電力 | 消費する | 制御できる |
| 交流系統 | 必要 | なくても可 |
他励式は、サイリスタを使います。サイリスタは、オンの信号で導通しますが、オフの信号では切れません。そこで他励式は、交流系統の電圧を使って電流を次のバルブへ移し(転流)、前のバルブの電流を零にして切ります。交流系統の電圧に頼るので、交流系統が弱い(短絡容量が小さい)と、転流に失敗しやすくなります。
また、他励式の変換器は、電流が電圧に対して遅れるので、遅れ無効電力を消費します。消費する無効電力は、交流フィルタ(基本波では進み無効電力を供給します)、進相コンデンサ、調相設備などで補います(力率改善と進相コンデンサの容量計算、調相設備の種類と電圧調整)。
自励式は、IGBT など、オフの信号で自分で電流を切れる素子(自己消弧形素子)を使います。交流系統の電圧に頼らずに運転でき、有効電力と無効電力を独立に制御できます。
直流送電の利点
直流送電の利点は、交流送電の弱点を避けられる点にあります。
| 項目 | 直流の特徴 |
|---|---|
| 無効電力 | 線路に流れない |
| 電圧降下 | 抵抗分だけ |
| 安定度 | 距離の制約が小さい |
| 充電電流 | 流れない |
| 周波数 | 違う系統をつなげる |
| 電線 | 2本で足りる |
| 短絡容量 | 連系しても増えない |
直流は、定常状態では電流も電圧も一定です。そのため、リアクタンスや静電容量の影響を受けません。表のうち、電圧・電線・安定度・充電電流を順に確かめます。周波数と短絡容量は、あとの周波数変換所と BTB で扱います。
同じ絶縁で高い電圧を使える
交流の電圧は、実効値で表します。実効値 の電圧の波高値は、次のとおり実効値の 倍です。
絶縁が耐えなければならないのは、この波高値です。そこで、対地電圧の最大値を同じにすると、直流は交流の実効値の 倍の電圧を使えます(図4)。
電線が2本で足りる
三相交流の送電線は3本ですが、直流は正極と負極の2本で足ります(双極式)。片方の極を、大地や海水を帰路にして使う単極式もあります。
交流の相電圧(実効値)を 、電流を 、力率を 1 とします。直流の対地電圧は、交流の波高値 と同じにします。送電電力は次のとおりです。
全体の電力はほぼ同じでも、電線は3本から2本に減ります。電線1本あたりでは、交流が 、直流が で、直流は交流の 倍です(図5)。また、直流は電流が導体の断面に一様に流れ、表皮効果がありません。
電線が少ないぶん、鉄塔を小さくしやすいことも直流送電の利点です。
安定度の制約が小さい
交流の2つの系統は、位相をそろえて同期して運転します。送電端と受電端の電圧(線間電圧)を 、、位相差を 、1線あたりの線路のリアクタンスを とすると、送れる電力は次のとおりです。
線路が長いほど は大きくなり、同じ電力を送るための位相差 が大きくなります。 には限度があるので、長距離の交流送電は安定度の制約を受けます。直流区間では位相差を問題にしないので、線路が長くても安定度の制約を受けません。
充電電流が流れない
ケーブルは、導体と大地の間の静電容量が大きく、交流では充電電流(進み電流)が流れます。充電電流は、線路が長いほど増えます。長くなると、ケーブルの電流容量の多くを充電電流が占め、負荷へ送れる電流が減ります。そのため、長距離の交流ケーブルは困難です(地中送電線路とケーブルの充電電流)。
直流は、定常状態で電圧が一定なので、静電容量に電流が流れ込みません。充電電流が流れないので、長距離の海底ケーブルに向きます(図6)。日本でも、海をまたぐ連系に直流送電が使われています。

直流送電の欠点
直流送電にも欠点があります。
| 項目 | 直流の欠点 |
|---|---|
| 変換所 | 両端に必要で高価 |
| 高調波 | フィルタが要る |
| 無効電力 | 他励式は補給が要る |
| 遮断 | 電流零点がなく難しい |
いちばん大きいのは、両端に変換所が要ることです。変換所の費用は、送電距離に関係なくかかります。短い距離では、変換所の費用の分だけ交流のほうが安く、距離が長くなると、線路の費用の差が効いて直流のほうが安くなります。総費用が等しくなる距離を損益分岐距離と呼びます(図7)。
長距離の架空送電線の構成は、架空送電線路の構成で扱います。
変換器は高調波を発生するので、交流側と直流側にフィルタが必要です。
もうひとつの欠点は、遮断が難しいことです。交流の電流は、1サイクルに2回零になります(電流零点)。遮断器は、電流零点でアークを消せます。直流の電流には電流零点がないので、アークを消しにくく、大きな電流の遮断は難しくなります(図8)。事故のときの電流は、変換器の制御で小さくおさえる方法がとられます。
周波数変換所と BTB
日本の電力系統は、おおむね東日本が 50 Hz、西日本が 60 Hz です。周波数が違う交流系統は、同期して運転できず、そのままではつなげません。そこで、いったん直流を介してつなぎます。周波数の違う系統を直流でつなぐ設備を、周波数変換所(FC)と呼びます。
BTB(Back To Back、背中合わせ)は、順変換器と逆変換器を、直流の送電線をはさまず、同じ場所に置いたものです(図9)。周波数が同じ系統でも、同期させずにつなぎたいときに使います。2つの系統は直流部分で切り離されているので、片方の事故電流が、もう片方へ流れ込みにくくなります。つないでも、系統の短絡容量が増えにくい点も特徴です。
変換所の屋外には、変換器の建屋のほか、変圧器や母線などが並びます(図10)。

- 変換器の建屋 変換器を収める
- 変圧器 交流の電圧を合わせる
- 鉄塔 交流の送電線へつなぐ
電気設備技術基準の解釈(第15条)でも、周波数変換装置(FC)や非同期連系装置(BTB)の直流部分のような短い直流電路は、異常電圧が生じるおそれがなければ、絶縁耐力試験を行わなくてよいと定められています。
直流送電の例題
例題1と4は、記述の正誤を見分ける問題です。例題2と3は、式に値を入れる計算です。
| 例題 | 使う量 | 解き方 |
|---|---|---|
| 1・4 | 用語の意味 | 一つずつ正誤を判断 |
| 2 | 、 | 電力、1本あたり、損失の順 |
| 3 | 、、 | 電流、電圧降下、損失の順 |
解答と解説を見る
- ア 正しい。直流は電流が一定なので、リアクタンスによる電圧降下が生じません。
- イ 正しい。他励式変換器は、遅れ無効電力を消費します。
- ウ 誤り。電流零点がないので、アークを消しにくく、遮断は難しくなります。
- エ 誤り。直流送電には両端に変換所が要り、短い距離では交流より高くつきます。
答え:(1)
解答と解説を見る
(1) 交流は、
直流の対地電圧は で、極間電圧は2倍の です。
(2) 交流は 、直流は です。直流は交流の 倍です。
(3) 損失は、交流が 、直流が なので、比は です。
答え:(1) 交流 、直流 約 (2) 交流 、直流 約 (3)
解答と解説を見る
電流は、
電流は往復の2本に流れるので、電圧降下と電力損失は、
受電端の電圧は 、電力は で、送電端から損失 を引いた値と一致します。
答え:電流 、電圧降下 、電力損失 (送電電力の )
解答と解説を見る
- ア 誤り。周波数の違う系統は、交流のままでは同期できないので、直流を介してつなぎます。
- イ 正しい。順変換器と逆変換器を、背中合わせに置きます。
- ウ 正しい。直流部分で切り離されているので、同期は不要です。
- エ 誤り。直流部分で切り離されるので、短絡容量は増えにくくなります。
答え:(3)
よくある質問
なぜ直流送電は長距離の海底ケーブルに向くのですか。
充電電流が流れないからです。交流のケーブルは、静電容量に充電電流が流れ、線路が長いほどその電流が増えて、負荷へ送れる電流が減ります。直流は、定常状態で静電容量に電流が流れ込まないので、長くしても充電電流の問題がありません。
他励式と自励式の違いは何ですか。
電流の切り方です。他励式はサイリスタを使い、交流系統の電圧で転流して電流を切ります。遅れ無効電力を消費し、交流系統が必要です。自励式は IGBT など自分で電流を切れる素子を使い、交流系統の電圧に頼らず、無効電力も制御できます。
周波数変換所と BTB は、どう違いますか。
呼び方の観点が違います。周波数変換所は「周波数の違う系統をつなぐ」という役割、BTB は「直流線路をはさまず変換器を背中合わせに置く」という構成を指します。どちらも、直流を介して交流系統をつなぐ設備です。
直流は交流より損失が小さいのですか。
同じ電流・同じ電線なら、直流の線路の損失は小さくなります(例題2)。電線が2本で足りるうえ、無効電力や充電電流による余分な電流が流れないからです。ただし、直流送電には変換所の損失が加わるので、全体の損失は変換所を含めて比べます。
思い出してみよう
答えを見る前に、まず自分で思い出してからタップしてください。
直流送電の基本構成は何ですか?
送電端の順変換器で交流を直流にし、直流の送電線で送り、受電端の逆変換器で交流に戻します。両端に変換所が要ります。
他励式の素子と、無効電力についての特徴は何ですか?
サイリスタを使い、交流系統の電圧で転流します。遅れ無効電力を消費するので、調相設備などで補います。
自励式の特徴は何ですか?
IGBT など自己消弧形素子を使い、交流系統の電圧に頼らず運転でき、有効電力と無効電力を独立に制御できます。
直流送電が長距離の海底ケーブルに向く理由は何ですか?
定常状態で充電電流が流れないからです。
同じ絶縁で使える直流電圧は、交流の実効値の何倍ですか?
倍です。交流の波高値に直流電圧を等しくできるからです。
直流の遮断が難しいのはなぜですか?
電流零点がなく、アークを消しにくいからです。交流は1サイクルに2回、電流が零になります。
まとめ
- 直流送電は、送電線の部分だけを直流にする方式。両端の変換所で、順変換と逆変換を行う
- 他励式はサイリスタで交流電圧により転流し、遅れ無効電力を消費する。自励式は自己消弧形素子で、無効電力も制御できる
- 利点は、無効電力・充電電流・安定度の制約が小さいこと、電線が2本で足りること、周波数の違う系統をつなげること。同じ絶縁なら直流電圧は実効値の 倍
- 欠点は、変換所が高価なこと、高調波が出ること、電流零点がなく遮断が難しいこと。損益分岐距離より長いと直流が有利になる
- 周波数変換所(FC)は周波数の違う系統を直流でつなぐ設備。BTB は直流線路なしで変換器を背中合わせに置き、非同期でつなぐ
雷による異常電圧を避雷器で逃がすしくみは避雷器と雷害対策で、交流の電圧降下の計算は三相3線式の電圧降下の求め方で続けて確認できます。








