電験三種の計算問題で使う数学は、中学・高校で習う範囲の一部です。分数と比例、指数と接頭語、平方根と三平方の定理、三角関数、ベクトルと複素数、連立方程式と対数の六つに絞って、使う場面とルール、例題を1本にまとめました。
この記事は、式が読めなくなったときに戻る場所として使えます。最初から通して読む必要はありません。電気の記事で式につまずいたら、その式に使う節だけを開き、例題を1問解いてから元の記事へ戻ってください。
電験三種の数学の全体像
- 電験三種に必要な数学とは
- 分数・比例・反比例と一次方程式
- 指数と接頭語
- k、m、μ は 10 の累乗の言い換え。指数は足し算でまとめる
- 平方根と三平方の定理
- 三角関数
- sin、cos、tan は辺の比。力率と無効電力に使う
- ベクトルの合成と複素数
- ずれた量は、直角三角形で合成する。複素数は j で書く
- 連立方程式と対数(デシベル)
電験三種に必要な数学とは
電験三種で使う数学は、新しい分野を学ぶというより、電気の式を読み書きするための道具です。この記事では、次の六つに絞ります。微分と積分は扱いません。
図1 電験三種の数学は、使う場面とセットで覚える
図1の左が数学、右がそれを使う場面です。たとえば、並列接続の合成抵抗は分数の計算、交流の力率は三角関数、交流回路のインピーダンスは複素数と平方根で表されます。
各節は、使う場面、最小限のルール、例題1問の順に並べました。得意な節は読み飛ばして、式が読めなかった節だけを開く使い方で足ります。式の記号は、リンク先の電気の記事と同じにしています。
分数・比例・反比例と一次方程式
オームの法則の式は、比例と反比例そのものです。合成抵抗や分圧の計算には、分数の足し算と一次方程式が入ります。
V=RII=RVR=IV
V は電圧 [V]、I は電流 [A]、R は抵抗 [Ω] です。R が一定なら、V と I は比例します。V が一定なら、I と R は反比例します。式の変形は、等号の両辺に同じ操作をします。V=RI の両辺を R で割れば I=V/R、両辺を I で割れば R=V/I です。
図2 比例は原点を通る直線、反比例は双曲線になる
図2の左が比例、右が反比例です。比例のグラフは原点を通る直線、反比例のグラフは双曲線になります。
並列接続の合成抵抗は、逆数の和になります。
R1=R11+R21R=R1+R2R1R2
分数の足し算は、通分してから分子を足します。抵抗が2つなら、「和分の積」の形にまとまります。導き方は並列回路の記事で確かめられます。
一次方程式は、未知数を片側に集めて解きます。たとえば、4 Ω の抵抗に未知の抵抗 x を直列につなぎ、12 V を加えたら 1.5 A 流れたとします。
4+x1212126x=1.5=1.5(4+x)=6+1.5x=1.5x=4
直列接続の考え方は、直列回路とオームの法則の記事にあります。
解答と解説を見る
「並列」とあるので、逆数の和を使います。
手順1 逆数を通分して足します。
R1=61+31=61+62=63=21手順2 逆数に戻します。
R=2 Ω検算として、和分の積で 6×3/(6+3)=2 Ω です。合成抵抗は小さいほうの 3 Ω より小さくなっていて、並列の性質に合っています。
指数と接頭語
回路の値は、k(キロ)や μ(マイクロ)のような接頭語を付けて書かれます。接頭語は、10 の累乗の言い換えです。
| 記号 | 読み | 倍率 |
|---|
| G | ギガ | 109 |
| M | メガ | 106 |
| k | キロ | 103 |
| m | ミリ | 10−3 |
| μ | マイクロ | 10−6 |
| n | ナノ | 10−9 |
| p | ピコ | 10−12 |
1茶と黒2赤3金- 茶と黒 1と0の2桁
- 赤 10を2回掛ける
- 金 誤差 ±5%
図3 ブレッドボードに挿した抵抗器。茶・黒・赤の帯は 10 に 100 を掛けた 1 kΩ、金の帯は誤差 5% を表す(写真はイメージ)
図3の抵抗器は、帯の色で値を表しています。茶は 1、黒は 0、赤は「×102」なので、10×102=1000 Ω=1 kΩ です。3本目の帯が、指数にあたります。
指数には、次の3つのルールがあります。
10a×10b=10a+b10b10a=10a−b100=110−n=10n1
掛け算は指数の足し算、割り算は指数の引き算です。m(ミリ)と M(メガ)は大文字と小文字の違いですが、10−3 と 106 で、109 倍も違います。接頭語を外して基本の単位にするときは、倍率を掛けます。単位どうしの関係は、電気の単位一覧にまとめています。
2 kΩ=2×103 Ω4.7 μF=4.7×10−6 F
解答と解説を見る
接頭語を 10 の累乗に直して、数字どうしと指数どうしに分けて計算します。
手順1 τ=RC に代入して、指数をまとめます。
τ=2×103×4.7×10−6=(2×4.7)×103−6=9.4×10−3 s手順2 10−3 は m(ミリ)なので、τ=9.4 ms です。
検算として、2000×0.0000047=0.0094 s で、同じ値になります。時定数の意味は過渡現象の記事で確かめられます。
平方根と三平方の定理
平方根は、インピーダンスの大きさ、三相回路の線間電圧と相電圧、ベクトルの大きさの計算に使います。a は、2乗すると a になる正の数です。次の2つは、近似値ごと覚えておくと計算が止まりません。
2≈1.413≈1.73
分母に平方根があるときは、分母と分子に同じ平方根を掛けて、分母から平方根をなくします(有理化)。
31=33≈0.577
三相回路では、線間電圧 Vℓ が相電圧 Vp の 3 倍になります。線間電圧が 400 V なら、相電圧は次のとおりです。
Vp=3Vℓ=3400≈231 V
この関係は、三相回路の記事で確かめられます。
直角三角形の3辺の長さには、三平方の定理が成り立ちます。直角をはさむ2辺を a、b、斜辺を c とします。
a2+b2=c2
図4 直角をはさむ2辺の正方形の面積の和は、斜辺の正方形の面積に等しい
図4の 3、4、5 は、3つの辺がすべて整数になる組です。2倍した 6、8、10 も同じ比になります。もう1つ、5、12、13 も確かめておきます。
52+122=25+144=169=132
解答と解説を見る
直列回路のインピーダンスの大きさは、三平方の定理の形の Z=R2+XL2 です。
手順1 インピーダンスの大きさを求めます。
Z=122+52=144+25=169=13 Ω手順2 オームの法則で電流を求めます。
I=ZV=13130=10 A検算として、5、12、13 の組なので 52+122=132 が成り立ちます。12+5=17 Ω と単純に足してはいけません。式の使い方は交流回路の力率の記事で確かめられます。
三角関数
三角関数は、直角三角形の辺の比に名前を付けたものです。交流の力率や無効電力、ベクトルの分解に使います。三角定規のように、角度が決まった直角三角形は、辺の比も決まっています。
1鋭角2斜辺3直角- 鋭角 90度未満の角
- 斜辺 いちばん長い辺
- 直角 90度の角
図5 形の違う2枚の三角定規。角度が決まると、辺の比も決まる(写真はイメージ)
図6 sin、cos、tan は、直角三角形の辺の比
図6のように、直角のほかの1つの角を θ とします。θ の向かいの辺が対辺、θ に接する直角でない辺が底辺、直角の向かいの辺が斜辺です。
sinθ=斜辺対辺cosθ=斜辺底辺tanθ=底辺対辺tanθ=cosθsinθ
最後の式は、sinθ と cosθ の分母の斜辺が約分できることから出ます。次の表の値は、直角三角形の辺の比から読めます。30°・60°・90° の直角三角形の辺の比は 1:2:3、45°・45°・90° の直角三角形の辺の比は 1:1:2 です(三角定規に使われる形です)。
| 角度 | sin | cos |
|---|
| 30° | 21 | 23 |
| 45° | 21 | 21 |
| 60° | 23 | 21 |
tan は、表の sin を cos で割れば求まります。
tan30∘=31tan45∘=1tan60∘=3
辺の比が 3:4:5 の直角三角形では、3 の向かいの角を θ とすると、次のとおりです。
sinθ=53=0.6cosθ=54=0.8θ≈36.9∘
もう1つの鋭角は約 53.1° で、sin と cos が入れ替わります(sin53.1∘≈0.8、cos53.1∘≈0.6)。力率 0.6 や 0.8 の計算で、この 3:4:5 の比がそのまま使えます。
三平方の定理 a2+b2=c2 の両辺を c2 で割ると、sin と cos の関係式が出ます。a は対辺、b は底辺、c は斜辺です。
(ca)2+(cb)2sin2θ+cos2θ=1=1
力率 cosθ がわかれば、sinθ=1−cos2θ で無効率が求まります。角度は、度のほかにラジアンでも表します。180∘=π rad なので、90∘ は π/2 rad です。
解答と解説を見る
P=Scosθ、Q=Ssinθ を使います。先に sinθ を求めます。
手順1 sin2θ+cos2θ=1 から sinθ を求めます。
sinθ=1−0.82=0.36=0.6手順2 有効電力と無効電力を求めます。
PQ=10×0.8=8 kW=10×0.6=6 kvar検算として、P2+Q2=64+36=10 kV⋅A で、S に戻ります。式の意味は交流回路の力率の記事で確かめられます。
ベクトルの合成と複素数
交流の電圧や電流は、大きさと向き(位相)をもつ量として、ベクトルで表します。抵抗にかかる電圧とコイルにかかる電圧は、90° ずれています。向きのずれた2つの量は、直角三角形の2辺として合成します。
たとえば、抵抗にかかる電圧が VR=60 V、コイルにかかる電圧が VL=80 V のとき、電源の電圧の大きさは次のとおりです。
V=VR2+VL2=602+802=100 V
ベクトルを式で計算できる形にしたものが、複素数です。j は虚数単位で、j2=−1 です。抵抗 R とリアクタンス X をもつ回路のインピーダンスは、複素数で Z˙=R+jX と書きます。
図7 複素数 R+jX は、複素平面の矢印。大きさと角度が交流の計算に使われる
図7のように、複素数は、実部を横軸、虚部を縦軸にとった平面上の矢印です。矢印の長さが大きさ Z、実軸との角が偏角 θ です。
Z˙=R+jXZ=R2+X2θ=tan−1RXZ˙=Z∠θcosθ=ZR
最後の cosθ が力率です。複素数の計算は、足し算は実部どうし・虚部どうしを別々に足し、掛け算は普通に展開して j2=−1 を使います。
(3+j4)+(1+j2)(1+j2)(3+j4)=4+j6=3+j4+j6+j28=−5+j10
複素数の計算は複素数の記事、ベクトル図の読み方は交流回路の力率の記事で確かめられます。
解答と解説を見る
まず Z を求め、I=V/Z から電流を求めます。
手順1 インピーダンスの大きさと電流を求めます。
ZI=32+42=5 Ω=ZV=5100=20 A手順2 偏角と力率を求めます。
θcosθ=tan−134≈53.1∘=ZR=53=0.6X が正(誘導性)なので、電流は電圧より約 53.1∘ 遅れます。検算として、消費電力は P=I2R=202×3=1200 W で、P=VIcosθ=100×20×0.6=1200 W と一致します。
連立方程式と対数(デシベル)
キルヒホッフの法則では、電流の未知数が複数でき、連立方程式になります。加減法は、2つの式を足すか引くかして、未知数を1つ消します。
2x+yx+y=7=4
上の式から下の式を引くと、y が消えます。
(2x+y)−(x+y)xy=7−4=3=4−3=1
検算として、2×3+1=7、3+1=4 で、どちらの式も成り立ちます。回路での使い方は、キルヒホッフの法則の記事で確かめられます。
対数 log10 は、「10 を何乗すると、その数になるか」を表します。
log1010=1log10100=2log101=0
対数には、積が和になり、累乗が係数になる性質があります。
log(ab)=loga+logblogan=nloga
増幅回路の利得は、対数を使ってデシベル [dB] で表します。電力の利得 Gp と電圧の利得 Gv は、次のとおりです。
Gp=10log10ApGv=20log10∣Av∣
電力は電圧の2乗に比例します。loga2=2loga なので、電圧の利得には 10 ではなく 20 を掛けます。同じ倍率でも、電力と電圧では dB の値が変わります。
| 倍率 | 電力 | 電圧 |
|---|
| 1倍 | 0 dB | 0 dB |
| 2倍 | 約3 dB | 約6 dB |
| 10倍 | 10 dB | 20 dB |
| 100倍 | 20 dB | 40 dB |
2倍が約 3 dB になるのは、log102≈0.301 だからです。ほかの倍率は、倍率を 2 と 10 の積に分けると求まります。たとえば、電力が 20倍の利得は、次のとおり約 13 dB です。
10log1020=10log10(2×10)=10(0.301+1)≈13 dB
増幅回路の利得の使い方は、トランジスタの記事で確かめられます。
よくある質問
数学が苦手でも、電験三種の勉強を始められますか
始められます。この記事の六つは、電気の式を読むための道具なので、最初に全部を身につけてから進む必要はありません。電気の記事から読みはじめ、式が読めなくなったところで該当する節へ戻る使い方でかまいません。勉強の順番は、電験三種の勉強の始め方にまとめています。
三角関数は、全部覚える必要がありますか
覚えておくと計算が止まりにくいのは、30°・45°・60° の sin と cos、それに 3:4:5 の直角三角形から出る 0.6 と 0.8 です。丸暗記せず、図6のような直角三角形を描いて、辺の比から sin、cos、tan を読む習慣をつけると、忘れても自分で出せます。
複素数とベクトル図は、どちらで考えればよいですか
どちらも同じ量の別の見せ方です。ベクトル図は、大きさと向きの関係を目で確かめる図です。複素数は、同じ関係を足し算や掛け算で計算できるようにした式です。意味をつかむときはベクトル図を描き、計算を進めるときは複素数に置く、と使い分けられます。
平方根や分数は、途中で小数にしてよいですか
最後まで分数と平方根のまま計算して、約分できるものを約分してから、最後に小数にするほうが誤差が積み重なりません。たとえば、400/3 の 3 を 1.7 と丸めると約 235 V、1.73 なら約 231 V で、分数のままなら約 230.9 V です。途中で丸めるほど、答えがずれます。
思い出してみよう
答えを見る前に、まず自分で思い出してからタップしてください。
6 Ω と 3 Ω の並列の合成抵抗を求める式は?
R=R1R2/(R1+R2) の和分の積で、6×3/(6+3)=2 Ω です。
k、m、μ は、それぞれ 10 の何乗?
k は 103、m は 10−3、μ は 10−6 です。
直列の R と XL があるとき、インピーダンスの大きさ Z の式は?
三平方の定理の形で、Z=R2+XL2 です。
30°・45°・60° の sin と cos は?
30° は 1/2 と 3/2、45° はどちらも 1/2、60° は 3/2 と 1/2 です。
力率 0.8 のとき、sinθ と、S=10 kV⋅A の無効電力 Q は?
sin2θ+cos2θ=1 から sinθ=0.6、Q=Ssinθ=6 kvar です。
Z˙=R+jX の大きさと偏角は? また j2 は?
Z=R2+X2、θ=tan−1(X/R) で、j2=−1 です。
まとめ
- 電験三種で使う数学は、分数と比例、指数と接頭語、平方根と三平方の定理、三角関数、ベクトルと複素数、連立方程式と対数の六つに絞れる
- 並列抵抗は逆数の和(和分の積)、接頭語は 10 の累乗で、指数の掛け算は足し算でまとめる
- 平方根と三平方の定理は、インピーダンスの大きさ Z=R2+X2 と、三相の 3 に使う
- 三角関数は直角三角形の辺の比で、sin2θ+cos2θ=1 から力率と無効電力が結びつく
- ずれた量は大きさをそのまま足さず、直角三角形か複素数で合成する。dB は 10 倍が電力で 10 dB、電圧で 20 dB
使う場面の記事は、直列回路、並列回路、過渡現象、交流回路の力率、複素数、三相回路、キルヒホッフの法則、トランジスタで確かめられます。法規の計算で使う式は法規の公式一覧、勉強の順番は電験三種の勉強の始め方を見てください。